ジョルジュ・バルビエ 「ナルシス」II
George Barbier : Narcisse



 「ナルシス」(1911年)
 Narcisse
 音楽:チェレプニン
 美術:レオン・バクスト
 振付:ミハイル・フォーキン


 ナルシス(ナルキッソス)はとても美しい少年で、多くの乙女たちが彼に恋しました。
 その中には、森のニンフ(精)エコーもいました。
 彼女はとてもおしゃべりだったため、全能神ゼウスの妻ヘラの怒りをかい、その呪いから、人の言葉の最後の部分しか言葉を発することが出来ませんでした。
 エコーがナルシスに愛を告げるためには、ナルシスの方から呼びかけてもらうしかありませんでした。
 ただ愛しいナルシスを見つめ続けるエコーにようやくチャンスが訪れました。彼女の気配にようやく気づいたナルシスは、「誰かそこにいるのか?」と呼びかけたのです。
 「そこにいるのか?」とエコーも言いました。
 「こっちにおいでよ」
 「こっちにおいでよ」
 喜びのあまりエコーはナルシスの前に姿を現しました。
 けれどナルシスは彼女の姿を見ると、「なんだ、君だったのか。君と恋をするくらいなら、死んだ方がましだよ」と、冷たく立ち去りました。
 「死んだ方がましだよ」とエコーは泣きながら、繰り返しました。
 エコーはその悲しみのあまり、洞窟に閉じこもり、いつの間にか姿が見えなくなってしまいました。
 そして彼女は、山や洞窟から最後の言葉だけを繰り返す“こだま”となったのです。
 エコーを哀れんだ仲間のニンフや、ナルシスから同じように冷たくされた女性達の、「あの少年も恋を知りますように。そしてその恋が決して報われませんように」という願いが復讐の女神ネメシスに聞き届けられました。
 そしてついにナルシスは恋をしました。
 湖を見た時、そこに現れた美しい少年に。
 なんとそれは湖面に映る自分の姿だったのです。
 寝食を忘れてナルシスは、水面を見つめ続けました。恋がこんなに苦しいものとは知りませんでした。
 湖面が揺れました。
 彼の見つめる少年は、微笑んでいるようにも、泣いているようにも見えました。
 ナルシスは愛しい少年に手を差し伸べ、ついに息絶えてしまいました。
 そして誰よりも美しかった少年の代わりに、美しい水仙の花が咲いたのです。


 ロシア・バレエ団(バレエ・リュス)の公演で、ナルシスはニジンスキー、エコーをタマラ・カルサーヴィナが踊りました。