詩集「ふじさんとおひさま」

谷川俊太郎・詩 佐野洋子・絵(童話屋) 



谷川俊太郎さんの童詩の詩集です。
ポケット詩集という、文庫サイズの小さな詩集です。
本屋さんでも図書館でも、見つけるのが難しいようなかわいらしい詩集で、佐野洋子さんの、愛らしいクレヨン画が素敵で、小さな宝物のような絵本でもあります。

物心ついた頃から小学校2年生ぐらいまで、持っていた、たくさんの不思議や喜びを、この詩集の中で、もう一度見つけることができました。
たくさんの素敵な詩から、夏をテーマにした三つの詩を選びました。


およぐ

みずがいやだって ぼくないた
そしたら めから なみだがでてきた
へんだな ぼくのなかにも
みずがある

みずがこわいって ぼくないた
そしたら のどがかわいてきて−−
へんだな みずが
のみたくなっちゃった



素朴だけれど、かわいくて、この詩がすきです。
小さな男の子と会話をしている気持ちになりました。
「水がこわい」と言ったら、こんなふうに言ってあげたらいいのだと、優しい気持ちになりました。
父の実家は海の近くなので、私は生まれてからまもなく海を見たのだと思います。
プールは、ビニールプールで、友達と遊んだのが最初の記憶です。
最初に泳いだのはいつなのかしら・・・。
スイミングスクールに通っていたので、10メートル以上泳げるようになったのは、小学校に入ってすぐだと思います。
そんな懐かしい記憶をこの詩は思い出させてくれました。




きんぎょ

きんぎょは いそがしい
いきるのに いそがしい
せんたくは しないけど
べんきょうも しないけど

たいせつな ようがある
おわらない ようがある
なつのひの ひるさがり
うごかない みずのなか



幼稚園の夏の金魚すくいからずっと3年ほど前まで、金魚を飼っていました。
魚には表情がありません。
けれど心があります。
金魚が最後の2匹になり、そのうち1匹が死んだ時、残る1匹が、何度も体を水槽に打ちつけました。
それは魚の悲しみでした。
何年も飼った金魚は、家族の“1人”でした。
金魚を飼い始めた時、金魚は何を考えているのかな?と水槽にはりついていた幼い日を、この詩で思い出しました。



みんみん

みんみん なくのは せみ
そうっと ちかづく あみ
はやしの むこうに うみ
きらきら かがやく なみ

よびごえ きこえる みみ
いちばん なかよし きみ
とこやに いったね かみ
まっかに みのった ぐみ



読んだ瞬間、懐かしく、輝かしいい夏休みの時間が蘇ってきました。
むっとするような熱気。聞こえてくるこえてくるセミの声。
電車から見えた海に、わくわくする気持ち。
準備体操もそこそこに、砂浜を走った記憶。
この詩を読んでいるうちに、光も音も色も空気も、そして懐かしい声さえも、鮮やかに蘇りまりました。
小学校の夏休みの絵日記をめくるような気持ちになりました。