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   とら
ウィリアム・ブレイク
岩波文庫 イギリス名詩選 平井正穂編


虎よ! 夜の森かげで
赫々あかあかと燃えている虎よ!
死を知らざる者のいかなる手が、眼が、
お前のおそるべき均整を造りえたのであるか?


いかなる遥かなる深淵で、或いは大空で、
爛々らんらんたるお前の眼の焔は燃えていたのであるか?
お前の造物主は、いかなる翼をかって天に昇り、
いかなる手を用いてあの火をつかみえたのであるか?


そして、いかなる肩が、いかなるわざが、
お前の心臓の筋肉をねじりえたのであるか?
お前の心臓が脈うち始めたとき、
いかに恐るべき手が、足が、用いられたのであるか?


いかなる金槌かなづちが? いかなる鎖が?
いかなる炉がお前の頭脳をるのに用いられたのであるか?
いかなる鉄床かなどこが? いかなる膂力りょりょくが、
お前の恐るべき想念を把握しえたのであるか?


星々がその光芒を地上に放ち、
その涙で大空を覆いつくしたとき、
造物主はお前をよしとして微笑んだのであるか?
彼は子羊を造り、かつお前を造ったのであるか?


虎よ! 夜の森かげで
赫々と燃えている虎よ!
死を知らざる者のいかなる手が、眼が、
お前の畏るべき均整を造りえたのであるか?




  The Tyger
                  William Blake

Tyger! Tyger! burning bright,
In the forests of the night,
What immortal hand or eye
Could frame thy fearful symmetry?
In what distant deeps or skies
Burnt the fire of thine eyes?
On what wings dare he aspire?
What the hand dare sieze the fire?
And what shoulder, and what art,
Could twist the sinews of thy heart?
And when thy heart began to beat,
What dread hand? And what dread feet?
What the hammer? What the chain?
In what furnace was thy brain?
What the anvil? What dread grasp
Dare its deadly terrors clasp?
When the stars threw down their spears,
And watered heaven with their tears,
Did he smile his work to see?
Did he who made the Lamb make thee?
Tyger! Tyger! burning bright
In the forests of the night,
What immortal hand or eye
Dare frame thy fearful symmetry?




ウィリアム・ブレイク(1757-1827)は、ロンドンの靴下商人の子として生まれました。
幼い時から、神や天使が現れる幻視を体験したと言われています。
早くから絵や詩の才能を示し、父の理解あるはからいで、彫刻師バザイアの弟子となり、7年後には銅版画家として独立し、以後本や雑誌の挿絵を彫板して、死ぬまで版画師として生計を立てながら、自分の作り出した物語を、詩と絵で表現しました。
30歳の頃に、『ティリエル』『セルの書』『無垢の歌』『天国と地獄の歌』など、自作の詩と絵を組み合わせたシリーズを発表しました。
ブレイクの芸術は、生前には少数の友人を除いては理解されませんでしたが、20世紀に入る頃から、詩人との資質も認められ、再評価されました。


美しい猛獣に惹かれてしまいます。
しなやかで綺麗な、それは安全なところで観察できるからこそ、美しいと思うのかもしれませんが。
この詩のページで取り上げたシルヴィア・プラスの詩「追跡」は、闇の中に潜む豹を描いていますが、虎は優雅な動きの豹より、もっと荒く獰猛で、それでいて炎のような美しさを持っているような気がします。
豹が美しいバレエダンサーなら、虎は更に奔放で情熱的なフラメンコ・ダンサーをイメージします。たとえばジプシーの血をひく不世出のフラメンコ・ダンサー、ホアキン・コルテスのような。

職人の家に生まれ、彫刻家に弟子入りしたブレイクの「虎」は、虎を神が作り出した最高の芸術作品として描いています。
けれど宗教画のような崇高な創作ではなく、もっと生々しく、虎を作り出す溶炉の赤く燃え上がる炎や熱さも伝わってきて、それは地獄の風景にもつながりました。
恐ろしいけれど美しい猛獣の、金色に浮かび上がる姿が、最後に目に見えるようでした。

なお、50年代SFを代表する鬼才アルフレッド・べスターの代表作『虎よ、虎よ!』は、このウィリアム・ブレイクの「虎」を下敷きに書かれています。



ウィリアム・ブレイク画 “Tyger of Wrath”


関連リンク:National Gallery of Victoria