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飛ぶ教室

エーリヒ・ケストナー作/高橋健二訳(岩波書店)

“子どもの涙はけっしておとなの 涙より小さい ものではなく、おとなの涙より重いことだって、めずらしくありません”

クリスマスには心が暖かくなるような、奇跡の起こる物語がたくさんありま す。
それはほとんどが神様の起こす奇跡です。

この物語にも素敵な奇跡があります。
けれどそれは人が起こした奇跡です。


ずっと会うことのなかった親友同士の再会。
臆病だった少年の見せた勇気。
家が貧しくて休暇にも家へ帰れなかった少年が家に帰れる奇跡。

それぞれの奇跡に、奇跡を起こした“人”に、感動しました。


舞台は1930年代前半のドイツの高等中学(ギムナジウム)。寄宿学校です。
この物語は高等中学が冬休みに入る前の数日間を描いています。

物語の中心となるのは5人の少年です。

ヨナタン・トロッツ(ヨーニー)は、小さな頃両親に捨てられるという悲し みを持った少年ですが、本が好きで文才があり、 この本のタイトルとなっている『飛ぶ教室』は、彼が書いたクリスマス劇で、 5人の少年達がに学校で上演しようと しています。
マルチン・ターラーはヨーニーと親友同士です。学年の首席で絵がとてもう まく、正義感に溢れていますが、 家が貧しく、奨学金をもらっています。
ウリー・フォン・ジンメルンは貴族の出で、頭はいいけれど、体が小さく気 が弱くて、自分に勇気がないことをいつも気にしています。
マチアス・ゼルプマン(マッツ)は、勉強はまるでだめですが、とても強く て、ボクサー志望です。いたもお腹をすかせています。 何もかも正反対のウリーと親友同士です。
ゼバスチアン・フランクは頭のきれる読書家ですが、ちょっとクールな孤立 派です。

その他に少年達の尊敬する、寄宿舎舎監の「正義先生」ことヨハン・ベク先 生や、廃車となった電車に住んで いて、少年達の相談にいつものってくれる「禁煙先生」(少年達も本名を知 らない)など、素敵な大人も 登場します。


このお話の素敵だなと思うのは、登場人物それぞれの喜びや悲しみが描かれ ていることです。
登場人物が悲しかったり悩んでいる時は本当につらくなってしまうし、その 後の喜びは一緒に嬉しくなってしまいます。


高等中学とは有史以前からいがみあっている実業学校の生徒達との戦い。
子どもといえどやることがすごいのです。
実業学校の生徒が高等中学の生徒を捕虜にして、戦いを挑んだり。
マルチンの機知やマチアスの強さ、禁煙先生のアイディア、最後は高等中学 と実業学校の生徒の雪合戦になります。
ああ、男の子っていいなと心から思ってしまいました。
みんなとてもかっこいいです。
ウリーだけは少し逃げ出してしまいましたが。

そのウリーも、みんなの前で勇気を見せるシーンがあります。
そして正義先生が語る少年時代の友情に感動します。
ヨーニーの書いた劇『飛ぶ教室』もおもしろかったです。


けれど一番良かったのが、マルチンのエピソードです。

クリスマスに家に帰省するのを楽しみにしていたのに、両親は息子へ送る電 車賃さえもないのです。

お母さんとマルチンの交わした手紙が悲しかったです。

“愛するマルチン、クリスマスにはわたしたち、ほんとに元気をだし、けっ して泣いたりなんかしないことに しましょう。わたしはおまえにそう約束します。お前もわたしに約束してく れますか。ではくれぐれも元気で 。おかあさんのキスを受けてください”

“愛するやさしいおかあさん! まずぼくはお察しの通り、胸をつかれまし た。でも、どうにも変えられない ことですから、しかたがありません。ぼくはすこしも泣きませんでした。た だの一滴も。それをおかあさんにも、 おとうさんにも約束します。(中略) クリスマスに帰れなくても、ぼくをほんとにかわいがってください。悲しが らないで!ぼくも悲しみません。 ぼくを信じてください。”


マルチンは約束通り、せいいっぱい平気なふりをしながら呟き続けます。
「泣くこと厳禁!泣くこと厳禁!」

眠ってまでもマルチンは呟き続けます。
「泣くこと厳禁!泣くこと厳禁!」

このシーンは幾度読んでも涙が出てきます。

そして見回りに来た「正義先生」ことベク先生が、たまたまその言葉を耳に し、翌日先生のおかげでマルチンは 家に帰ることができるのです。

顔を輝かせて駅に行ったマルチンに駅員が尋ねます。
「なにがそんなにうれしいの?」
「クリスマスですもの」

本当に本当に素敵です。
メリー・クリスマス!

もしもこれが本ではなくて舞台だったら、少年1人1人に拍手を送りたいと 思いました。
素敵な素敵な物語をありがとう!と。



この本は作者ケストナーが夏の日に、クリスマスを思いながら書いたという 設定になっています。
お母さんに物語をせかされながら。
ケストナーもマルチン親子のように お母さんと仲がいいのです。

そのエピソードもとても微笑ましいのですが、この物語の書かれた時代を思 うと、むしろ凍えるような寒い冬に 夏を思って書かれたように思います。

この本が出版された1933年、ドイツではヒットラーが首相となります。
自由主義者で平和主義者のケストナーの小説や詩は、公衆の前で焼かれ、出 版は禁止されてしまいます。
子どもの本以外は。
『飛ぶ教室』は1939年に始まった戦争中もドイツの子どもに読まれていたの です。

戦争中、ドイツの作家や音楽家達は国外に亡命してしまいます。
私の大好きな作家ヘッセやトーマス・マンなども。
けれどケストナーは祖国にとどまり続けた作家でした。
つらい時代、マルチンのように「泣くこと厳禁!泣くこと厳禁!」と思って いたのでしょうか。
戦後もケストナーは『ふたりのロッテ』のようなすてきな作品を書きました。


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