プロローグ
Prolog(Prologue)



絵画:皇妃エリザベート



 死者の世界で、1人の男が裁判にかけられていた。
 彼の名はルイジ・ルキーニ。1898年9月10日、オーストリア・ハンガリー帝国皇后エリザベートを暗殺した男だった。彼は死後100年たった後も、この死者の世界で裁判にかけられていたのだった。
 繰り返される質問「暗殺の動機は?」に、ルキーニは同じ言葉を繰り返し続ける。エリザベート自身が死を望んでいたからだと。
 それを証明するため、ハプスブルク家の者を始めとする、エリザベートと同時代の死者たちが集まってくる。エリザベートのの夫皇帝フランツ・ヨーゼフ、息子のルドルフ皇太子、姑ゾフィー大公妃、父マックスと母ルドヴィカ、多くの亡者たち。

 すべての亡者たちが歌い、踊る。

 あのころは、誰もが死と戯れていた
 けれど誰もエリザベートにはかなわなかった

 ただ1人踊りに参加しない亡者ルケーニに、裁判官は再び聞く。
「最後にもう一度聞く、ルケーニ。裏で手を引いていた者は?」
「トート(死,死神)ですよ。トートだけです」
「動機は?ルケーニ」
「愛ですよ。深い愛」
 そしてルケーニは笑い出す。

 そこに突然、亡者の間からトートが現れる。若く、男にも女にも見える美貌の死神。彼もまたエリザベートを愛していたと告白し、ルケーニはエリザベートの生涯を語り始めた。







皇妃の紋章
The coat of arms of the Empress.





1863年 ウィーンにて



1863年 ギッシンゲン温泉にて



1861/1862年 ベニスにて