ナイ チンゲールとバラ オスカー・ワイルドの童話です。 今まで読んだ本の中で、この物語に出てくる1輪のバラほど赤いバラを見た 事がありません。 この物語に出てくる赤いバラは、1羽の小さなナイチンゲールの心臓の血で 作られているからです。 この物語のナイチンゲール(夜鳴ウグイス)はくる夜もくる夜も、美しい恋の歌 愛の歌を歌って過ごしてきました。 けれど、毎日愛を歌っていたのにも関わらず、本当の愛というものがどんな ものか知りませんでした。 ある日ナイチンゲールは1人の若い大学生が嘆いているのを見ました。とて もきれいな青年です。 「赤いバラを持ってきてくださるなら、あなたと一緒に踊ってあげるわ。と、 あの人は言ったけど。でも、うちの 庭のどこを探したって、赤いバラなどありはしない。赤いバラがないばかり に、僕の一生は惨めなものになって しまうんだ」 それを聞いてナイチンゲールは思いました。 「とうとう本当の恋人を見たのだわ」 「本当の恋人って、どんなものか知らなかったけれど、くる夜もくる夜も、 わたしは恋の歌を歌ってきたし、 くる夜もくる夜も、お星様にむかって、恋人の話をしてきたわ。でも、やっ と今、この目でその恋人を見ている のだわ」 ナイチンゲールに気付かない若者は更に言葉を続けます。 「明日の晩、王子は舞踏会を催される。彼女も行くだろう。もし僕が赤いバ ラを持っていけば彼女は僕と踊って くれるだろう。でもうちの庭には赤いバラなんてない。あの人は僕を振り返 らないだろう。そうしたら、 僕の胸ははりさけてしまうだろう」 それを聞いたナイチンゲールは、この青年が本当の“恋人”だと確信します。 ナイチンゲールは青年が気の毒でなりません。 ナイチンゲールは本当の“恋人”のために、赤いバラを探してあげようと考 えます。 あちこちのバラを尋ねます。 「赤いバラを1輪くださいな。そしたら、わたしの1番きれいな歌を歌って あげますから」 けれどバラの木達は言います。 「私のバラは白なのです」 「私のバラは黄色なんです」 そして黄色のバラが教えてくれました。 「あの学生の窓の下にはえている私の兄弟の所へ行ってごらんなさい。望み のバラをくれるでしょう」 それを聞いてナイチンゲールは喜びいさんで、学生の窓の下にはえているバ ラの木のもとへ行きます。 「赤いバラを1輪くださいな。そしたら、わたしの1番きれいな歌を歌って あげますから」 けれどバラの木は言いました。 「わたしのバラはたしかに赤です。でも冬の寒さと霜の冷たさと嵐の傷で、 私にはもうバラを 咲かせることはできないのです」 それでもナイチンゲールは言います。 「たった1輪の赤いバラが欲しいのです。どうにか手に入らないでしょうか? 」 バラの木は言いにくそうにして1つのことを教えてくれました。 「もし、あなたがバラをお望みなら、月の光のさす間、音楽でバラの花をこ しらえ、その花をあなたの心臓の 血で染めなければなりません。トゲに胸を押しあてて、一晩中私に歌を歌っ て聞かせなければなりません。 あなたの血が私に流れ込んで、1輪の赤いバラができるのです」 ナイチンゲールは呟きます。 「1輪のバラに死は大きな代償だわ。でも恋は命より尊いものだわ。それに 小鳥の心臓になんて、人間の心臓に 較べたらどれほどの価値があるかしら」 そして飛び立ったナイチンゲールは学生を見かけます。 「喜びなさいな。赤いバラをさしあげます。でもその代わりにあなたは本当 の“恋人”になってくださいね」 けれど学生にはナイチンゲールの言っていることが分かりません。本の世界 しか知らなかったのです。 その夜、月が空に輝いた時、ナイチンゲールは自分の胸をバラのトゲに押し あて、一晩中歌いました。 自分の知っている限りの恋の歌を歌いながら。 そして1輪の美しい赤いバラが咲きました。 バラの木はうれしそうにバラが咲いた事をナイチンゲールに教えました。 けれどナイチンゲールは答えませんでした。 トゲをさしたまま、高い草の中に倒れて死んでいたのです。 お昼になって学生は自分の窓の下に美しい赤いバラが咲いていることに気付 いて喜びました。 そしてそのバラを摘み恋する女性の元へと行きました。 ところがその女性は言うのです。 「そのバラは今夜着るドレスの色に合いませんわ。それに私は他の方から宝 石を頂いてしまったの。宝石の方が 花よりずっと高価だと思いませんか?」 学生は憤慨して、帰り道、バラを道路に投げ捨てます。バラは溝に落ちてし まいました。 そして学生は言いました。 「なんて恋はばかげているんだろう」 そして家に帰って本を読みはじめるのです。 この物語を呼んだ時、かわいそうなナイチンゲールを思って泣きました。 溝から赤いバラを拾ってあげたいと思いました。高い草むらの中に横たわっ たナイチンゲールを拾って、 手の中に包み、抱きしめてあげたいと思いました。 少女のように恋を夢見て、恋に死んでいったナイチンゲール。 かわいそうでかわいそうで。 せめて学生が失恋しても、バラを投げ捨てないでほしかったです。恋を無価 値と言わないでほしかったです。 宝石よりも、ナイチンゲールの血で作った赤いバラの方が、お金では買えな い高価なものとどうして気付かない のでしょう。 ナイチンゲールの死は虚しい、何も残らないものでしょうか。 私は思いませんでした。 見えなくても、そのバラがどんなに美しいか、どんなに赤いか分かります。 「恋」は“恋される”よりも“恋をする”方が、どれほど価値があるか分かっ たような気がします。 小さな赤いバラを見る度に「ナイチンゲールとバラ」のナイチンゲールを思 い出します。 |