ロミオとジュリエット

作:ウィリアム・シェイクスピア

 おお、ロミオ、ロミオ!どうしてあなたはロミオ?
 お父様と縁を切り、ロミオと言う名をおすてになって。
 それがだめなら、私を愛すると誓言して、
 そうすれば私もキャピュレットの名をすてます。
 私の敵といっても、それはあなたのお名前だけ、
 モンタギューの名をすてても、あなたはあなた。
 モンテギューってなに?手でもない足でもない、
 顔でもない、人間のからだのなかの
 どの部分でもない、だから別のお名前に。
 名前ってなに?バラと呼んでいる花を
 別の名前にしてみても美しい香りはそのまま。

 O Romeo, Romeo! wherefore art thou Romeo?
 Deny thy father and refuse thy name;
 Or, if thou wilt not, be but sworn my love,
 And I'll no longer be a Capulet.
 What's in a name? that which we call a rose
 By any other name would smell as sweet;


シェイクスピアの戯曲の代表作の1つである『ロミオとジュリエット』。有名な第二 幕のバルコニーのシーンの ジュリエットのセリフです。

イタリアはヴェローナの名門キャピュレット家、その一人娘であるまもなく14歳にな る美少女ジュリエットが、 自分の家で催された舞踏会で出会った美少年。
両親に乳母に大切に可愛がられて育った、少女の初めての恋。
それはキャピュレット家と並ぶヴェローナの名門で、深く対立しているモンタギュー 家の一人息子、ロミオでした。
友人達と仮装して敵方のパーティに侵入していたのです。

両親に逆らったことがなく、両親がいいと言うことはみんないいこと、悪いというこ とはみんな悪いことだと思って育った ジュリエット。
自然と沸き上がる想いは、学ぼうと思う憎しみよりも強くて。
舞踏会が終わった後で、自分の部屋に戻ったジュリエットが、熱い頬を冷ますかのよ うに出たバルコニーで、1人夢見るように想いを 語ったのが、上のセリフです。

実はこの時、やはり舞踏会で出会ったジュリエットが忘れられないロミオがジュリエッ トの言葉を聞いているのです。
そしてジュリエットの元へ、高いバルコニーをロミオは登っていくのです。
とてもロマンチックなシーンです。

でも、初めて本で読んだ時はジュリエットよりも年下だったせいか、あまりこの物語 に惹かれませんでした。
後先を考えずに結婚したりする2人にも、後に死を選んでしまう生き方にも。

でもその後、原書で読んで歌のように韻をふんだ言葉に魅了されました。そして向こ う見ずで一途なジュリエットの 想いがとてもかわいく感じました。

英語の“rose”という花は、日本語の“薔薇”と呼ばれても本当にきれいです。


ジュリエットに比べると、ロミオの方は美少年だけれど、浅はかで短気で、しかも熱 しやすく冷めやすい人柄に思えます。
ジュリエットと出会ったキャピュレット家のパーティにも、その時夢中だったロザラ インという女性がパーティに出ると いう理由だけで、わざわざ敵の家に忍び込んでいるのです。しかもジュリエットと出 会うとあっさりロザラインを 忘れます。

ジュリエットは、ロミオの初めての恋ではないのです。

バレエにも『ロメオとジュリエット』(何故かバレエだとロメオなのです・・・)が ありますが、その中でロメオや 親友のマキューシオ達が、ヴェローナの活気溢れる街で娼婦達と明るく踊るシーンが 2回ほど出てきます。
ロメオはけっこう余裕があって、娼婦に抱きつかれても動じません。
また原作には、ロミオ達の仲間が、ジュリエットの乳母をからかうシーンがあります。
女性の扱いに慣れています。

もしかしたら娼婦達と恋愛とは別に経験は積んでいるのかもしれません。
ジュリエットが一番好きということには変わりありませんが。

ジュリエットにとってロミオはオンリーワン、ロミオにとってジュリエットはベスト ワンの恋人だったのでしょう。

ベストワンよりもオンリーワンの方が美しく感じます。
だから私はジュリエットの方が好きでした。

けれど数年ほど前に、映画『ロミオ+ジュリエット』でレオナルド・ディカプリオ、 アメリカン・バレエシアターの 日本公演の『ロメオとジュリエット』でウラジミール・マラーホフ、フィギュアスケー ト男子シングルでロシアの イリア・クーリックが、それぞれの分野で私が大ファンの男性がロミオを演じて、ロ ミオについていろいろと考え ました。

ジュリエットはロミオに恋をしていました。でもロミオはジュリエットを恋しただけ でなく、愛したのではないかと 思います。

敵だと分かっても変わらず自分のことを好きだと言ってくれた少女。ジュリエットの 従兄ティボルトを殺してしまっても、それでも自分の ために涙を流してくれた少女。
いつの間にか、いつかは色褪せるだろうバラのような美貌だけではなくて、魂の美し さに恋をしたのだと思います。

魂に恋をするのは“愛”だと思います。
それは宗教にも言えるのかもしれませんが。

上記の3人が演じたロミオに恋をして、初めてロミオについて思いました。


「シェイクスピア作品の花々」についても書いてみました。ウォルター・クレインの絵画のところです。よろしければ、ご覧ください。