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  暗殺の森

1970/伊・仏・独合作/1時間53分
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
製作:マウリツィオ・ロディ・フェ
原作:アルベルト・モラヴィア
脚本:ベルナルド・ベルトルッチ
撮影:ヴィットリオ・ストラーロ
音楽:ジョルジュ・ドルリュー

キャスト
マルチェロ:ジャン・ルイ・トランティニャン
シセュリア:ステファニア・サンドレッリ
アンナ:ドミニク・サンダ
クアドリ教授:エンツォ・タラショ

STORY
第二次世界大戦前夜、ファシスト支配下のローマ とパリが舞台。反ファシスト の教授暗殺暗殺の指令を受けたインテリの“体制順応主義者”の姿を描く。13歳の時、 同性愛を迫ったリノという青年を 殺してしまった忌わしい記憶を忘れるため、マルチェロは世の中の流れに逆らわず生 きることを選んだ。そんな時、 彼は「政治犯としてパリに亡命しているマルチェロの恩師クアドリ教授を抹殺せよ」 という秘密任務を、ファシスト政府 から依頼される。新婚旅行を口実にパリへ旅立つマルチェロ。美しい教授の妻アンナ に魅了されたが、マルチェロは党に 背くことができなかった。深い森に悲鳴が響き渡る。



原題は“体制順応主義者”。
第二次世界大戦前夜のローマとパリを舞台に、ファシズムに傾倒した1人の青年の孤 独な狂気を描いています。

青に統一された色彩は、冷たく、ファシズムに支配されている世界、またはその体制 の順応主義者である主人公にとっての心 の色のようでした。

哲学の講師であるインテリ青年マルチェロ。
彼は13歳の時、友達にいじめられている所を救ってくれたリノという青年に家に連れ ていかれ、同性愛を迫られたことから、 咄嗟にリノが持っていた拳銃を奪い取って、彼を撃ってしまいます。
動かなくなったリノを見て、逃げたマルチェロ。
幸い見つからなかったものの、自分が人殺しだという罪に悩まされ続けます。
精神異常者である父、モルヒネ中毒である母、マルチェロは自分の中に流れる狂気の 血に怯え、逃げるかのように学問に 没頭し、哲学の講師となります。
イタリアはムッソリーニのファシスト政権が実権を握り、暗く不安な季節が訪れます。
マルチェロは時代と体制に順応して、決して異端者にならないと自分自身に誓います。
ファシスト党に入党し、知性はないけれど美しいジュリアと婚約します。

マルチェロに党から極秘任務を受けます。それは彼の恩師であり、政治犯としてパリ に亡命しているクアドリ教授を 調査せよというものでした。
マルチェロはジュリアとの新婚旅行と、任務を同時にやりたいと提案します。クアド リを訪ねるにはうってつけの 口実でした。
政府のエージェントとしてマンガニェロが同行することになります。
ところが旅の途中で指令が変更されます。

「クアドリを調査した上で抹殺せよ」

パリに到着したマルチェロ夫婦はクアドリ教授の家に招待され、そこで教授の若く美 しい妻アンナ に出迎えられます。
アンナは何故かマルチェロに敵意を見せますが、一方ジュリアに対しては彼を挑発す るかのように、過剰なくらいの優しさを見せます。

アンナに惹き付けられるマルチェロの心は、自分の任務遂行にぐらつきます。
数日後、アンナがベルサイユを案内すると言い出します。クアドリ教授は行きません。
マルチェロはマンガニェロにそのことを伝え、クアドリが1人乗る車を襲う計画をた てます。

けれど、翌朝、車がうまく森の中を通った時、クアドリの隣にはアンナがいました。

アンナの悲鳴が深い森の中に響き渡ります。

そして、マルチェロは身じろぎもせず、無言のまま暗殺に立ち会ったのでした。

数年後、マルチェロはジュリアと小さな娘の三人でローマのアパートで暮していまし た。
そんな時、ラジオがファシズムの崩壊を報じました。
マルチェロは大混乱の夜の町を歩き、曲り角へきたとき、自分の目を疑いました。
年老いてい白髪になっているものの、少年の時に自分が殺したはずのリノがいたので す。
マルチェロは人殺しではなかったのです。自分の良心に背いてまでの人生、すべてが 虚構だったのです。


青く美しい、静謐な“地獄”を見たような気がしました。
第二次世界大戦前夜のローマとパリの2代都市は美しく退廃的な空気を持ち、そして その美しさは、豪華な毛皮や夜会ドレスに身を包んだ イタリア美人のジュリアとフランス美女のアンナへ受け継がれます。

少年時代に心に傷を受け、哲学の講師となったインテリのマルチェロ、ジャン・ルイ・ トランティニャンは仕立ての良い細みのスーツを エリートらしく着こなし、整った顔だちは無表情で、それは秘密任務を受けたものに 相応しく、酷薄そうにも諦めの表情にも見えます。ロシアのプーチン大統領を思い出 しました。
けれどそんな彼もクアドリ教授夫人アンナに惹かれた時、ほんの一時だけ自分自身を 見せます。それがかえって悲しさを感じました。

彼の妻となるジュリアは、素晴らしい美人ですが、教養も気品もなく、けれどマルチェ ロのことは本当に愛しています。

対するアンナのドミニク・サンダ。
この世にこんなにも美しい人がいるのだと驚きました。
黒髪のジュリアが現実の象徴なら、金髪のアンナは夢の象徴でしょうか。

最初の登場シーン。クアドリ教授を訪ねたマルチェロを迎えるシーンですが、ラフな シャツにパンツ、加え煙草に、ドアに寄り掛かっている姿は、 不良っぽい美少年のようで、けれど体は美しい女性の線を描いていて、アンドロギュ ヌス(両性具有)的な美しさを感じました。

マルチェロを挑発するかのように、ジュリアに優しくしますが、まるで彼女をくどい ているような、同性愛的な香りがします。
特にダンスホールで、マルチェロとクアドリを前にして、ジュリアの手を取り、彼女 と踊るシーンは、彼女を優雅にリードして、強引な美青年を思わせます。
それでいながら、容姿は優雅で美しく、画面から香水の香りが漂ってくるような“女” を感じます。
“ファム・ファタル(運命の女)”というのは、こんな女性を言うのだろうと思いま した。

最初のパンツファッションから次のシーンは、一転してバレエのレッスンシーンに。
美少年から、清楚な美女に変身します。
レオタード姿で小さな少女を指導する美しさは、パレエの『ジゼル』の妖精の女王ミ ルタの冷たい気高さを思い出しました。
そしてマルチェロに嫌悪の表情を見せながら、簡単に彼に唇を許し、受け入れます。

こんなにも、心を翻弄させながら、彼女の力は弱く、美しいだけに、悲惨な死が似合っ てしまうのが皮肉です。
アンナの死は夫のクアドリよりも印象的です。
アンナは夫のクアドリの犠牲になったのでなく、反対に犠牲になったのはクアドリの 方で、アンナこそが狂った世界の生け贄となったような気がしました。

静謐だった森から突然現れる暗殺者達。
雪の積もった森、木々の間をぬうように逃げていく姿は、まるで狩られる美しい鹿の ようでした。

たった一度だけ本当に愛した女性を、無表情で見殺しにしたマルチェロ。
恩師であるクアドリを殺したのもまた、一種の“父殺し”でしょうか。
全てが崩壊した中、彼は死を選ぶのでしょうか。
それとも・・・、やはり新しい体制に順応し、かつてのファシストの仲間をののしり、 売り、そして無表情に生きるのでしょうか。





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