ルートヴィヒ〜神々の黄昏

1972年/4時間
イタリア・フランス・西ドイツ合作
監督・脚本:ルキノ・ヴィスコンティ
撮影監督:アルマンド・ナンヌッツィ
美術:マリオ・キオーリ,マリオ・シーシ
編集:ルッジェーロ・マストロヤンニ
音楽:ロベルト・シューマン
   リヒャルト・ワーグナー
   ジャック・オッフェンバック

キャスト
ルートヴィヒ:ヘルムート・バーガー
エリザベート:ロミー・シュナイダー
ワーグナー:トレヴァー・ハワード
コジマ:シルヴァーナ・マンガーノ
オットー:ジョン・モルダー・ブラウン

STORY
19歳の若さでバイエルンの国王になったルートヴィ ヒ2世は、作曲家ワーグナーに心酔し、 巨大な国費を注ぎ込んだ。彼が想いを寄せる従姉のオーストリア皇后のエリザベート は、妹祖フィーとの結婚を勧め ルートヴィヒも同意するが、エリザベートの想いは断ちがたく婚約はす破棄される。 1866年、バイエルンはプロイセンと オーストリアとの普墺戦争に、オーストリアの盟友として参戦するが敗れ、信頼して いたワーグナーにも裏切られた ルートヴィヒは孤独のどん底へと追い込まれていく。



リヒャルト・ワーグナー 最後のピアノ曲




目も眩むように美しく豪華で、同時に限りなく孤独で虚無的な、1人の王の物語でし た。

1864年、18歳のルートヴィヒは、父の後を継いでバイエルンの国王となりました。
優れた職人によって作られた仮面のように完璧に、整い過ぎるくらい美しいルートヴィ ヒ。
軍服に豪華なマントを羽織ったルートヴィヒの姿は“絵のよう”ではなく、どんな絵 画にも見られないような美しさ でした。

戴冠式の前に、ルートヴィヒは司教の前に跪き教えを請います。

「謙譲の心を知れ。私がもっとも望むのはそれだ。身近な人々の意見によく耳を傾け、 その忠告を聞け。まことに偉大 な人間は己れを顧みて、名声に酔うことなく、自らを持すことを銘記せよ」

「神父様、悩みぬいた私ですが、もう大丈夫です。力をいかに用いるかが分かったよ うな気がします。賢者や芸術家 達を集め、謙虚にその進言に耳を傾けるつもりです。彼らの強力を力とし、名君の誉 れ高き王に負けず、一層の努力を ・・・」

ルートヴィヒはこの言葉と降りの人生を生きます。
彼が王になって最初にしたことは、オペラ作曲家であるワーグナーを呼び寄せること でした。
『ニーベルングの指輪』や『ローエングリン』などゲルマン神話などを題材に壮大な オペラを作り、反面借金まみれ のワーグナーは、その後生涯を通じてルートヴィヒの金と心を絞り尽くします。

孤独と芸術を愛し、世俗的なことを嫌うルートヴィヒ。
政治も戦争も結婚も、彼は関わることを厭い、けれどそのことについて孤独に悩みま す。
森の奥深くに中世そのままの城を作り、ルイ14世やマリー・アントワネットなど過去 の人物を想像しつつ、1人で 晩餐をします。

そんなルートヴィヒを理解し、彼もまた唯一心を開いた女性が、年上の従姉オースト リア皇后のエリザベートでした。

美形揃いのヴィッテルスバッハ家出身のルートヴィヒとエリザベートは共に美しく、 王家のしきたりや束縛を嫌う似たもの 同士の2人でした。
雪の森の中を歩き、2人の唇が触れあう瞬間は、とても美しく夢のようで、そしてルー トヴィヒはその夢にしか生きられない 人でした。

エリザベートは自分の変わりにと、ルートヴィヒと妹ゾフィーを婚約させますが結局 破破談になります。

王家などの高貴な血を英語で“Blue Blood(青い血)”と言いますが、ヴィッテルス バッハ家の青い血は濁り、 そこに生まれた者は、美しさの他に、狂気もまた受け継ぎました。

1866年、プロイセンとオーストリアとの普墺戦争にバイエルンはオーストリア側に立 ち参戦しますが、ルートヴィヒは 自室に逃げ込み、代わりに弟のオットーが戦場に行きます。
オットーもまたヴィッテルスバッハの血を色濃く受け継いだ美少年ですが、戦争がオッ トーの心に狂気を呼び覚まします。

狂う弟を抱き締めるしかなかったルートヴィヒ。
彼は更に自分の世界へと逃げ続けます。

理想通りに作られたノイシュバンシュタイン城に閉じこもり、オペラのままの洞窟や 泉を作り、もともとホモセクシュアル性の強かった彼は、お気に入りの家臣や 役者だけを連れて行きました。
目は充血し、ぶくぶくと太り、虫歯の痛みに昼からでベッド寝ています。

そんな時、心配したエリザベートが訪ねてきます。
変わりきった自分の姿にルートヴィヒは絶対に会えないと、家臣に告げさせ、帰って いくエリザベートの姿を見ながら 「エリザベー!トエリザベート!」とむせび泣く姿がとても印象的でした。

そんな王の奇行を有力な貴族は利用し、王の廃位を計ります。

ルートヴィヒは“偏執狂(パラノイア)”としてベルグ城に幽閉されますが、ある雨 の日、監視役のグッデン教授と 湖畔へと散歩に出かけ、自殺か他殺か事故か、2人揃って謎の死を遂げます。

孤独と死への限りない憧憬、けれどそれはルートヴィヒにとって限りない恐怖でもあ りました。
1人で死ぬことは、彼にとって、やはりつらく寂しいことだったのでしょうか。

夢の中で生きたいと思うことは、誰にでもあるでしょう。私自身も。
誰にも会いたくないと思いつつ、寂しくて仕方のないことも。
けれど私と同列にするには、ルートヴィヒはあまりに高貴で美しく、芸術を認めると いう才能にも溢れています。

考えれば、彼ほど恵まれていながら、孤独であった人はいないような気がします。
絶世の美貌に恵まれ、唯一恋した人にも想われ、好きな音楽と好きな城に囲まれて。
彼の人生を不幸と思うと同時に、その人生に惹き付けられ、美しい彼自身にも恋愛の 気持で憧れてやみません。