マイライフ・アズ・ア・ドッグ

1985年/スウェーデン/1時間42分
監督:ラッセ・ハルストレム
脚色:ラッセ・ハルストレム
   レイダル・イェンソン
   ブラッセ・ブレンストレム
   ペール・ベルイルント
製作:ヴァルデマール・ベリエンダール
原作:レイダル・イェンソン
撮影:ヨルゲン・ペルソン
音楽:ビヨルン・イスフェルト

キャスト
イングマル:アントン・グランセリウス
サガ:メリンダ・キンナマン
ママ:アンキ・リデン
グンネル:トーマス・フォン・ブレムセン

STORY
「人工衛星スプートニクに乗せられて死んだライ カ犬より、僕のほうがまだ幸せだ」と満天の星を 見上げて思う12歳の少年イングマル。パパは南洋に行って帰ってこず、ママは結核で イングマルは、田舎に住む叔父のところに預けられて しまう。ママが大好きなのに、その愛も空回りしてしまい一向に伝わらない。可愛がっ ていた犬シッカンも犬の病院に入れられ離ればなれ になってしまう。その田舎ではガキ大将のサガを始め、素敵な人々に出会い、イング マルは明るさを取り戻す。


ソ連の宇宙実験。世界初の人工衛星「スプートニク」。
そのスプートニク2号は、ライカ犬を乗せて打ち上げに成功します。ライカ犬は、宇 宙空間に出た最初の生物になりますが、 衛星は回収されず、宇宙空間の生物研究の犠牲になりました。

「よく考えれば、ぼくは運が良かった。宇宙を飛んだあのライカ犬。心臓と脳に反応 を調べるためのワイヤーを付けら れて、さぞかしイヤだったことだろう。食べ物がなくなるまで、地球を5カ月回って 飢え死にした・・・」

1958年頃のスウェーデン。
満天の星を眺めながら12歳の少年イングマル。
イングマルは小さな不幸をいっぱい抱えているのです。

パパは南洋に行ったままずっと帰ってきません。

ママは病気で、何をやってもドジをふんでしまうイングマルのことを嘆いてばかり。 イングマルはママが大好きなのに。
お兄ちゃんのエリクはイングマルをいじめてばかりいます。

悲しいことがあると、イングマルが思う言葉が上の「ライカ犬より幸せ」という言葉 なのです。

食事中、何かドジをふむのではとドキドキするイングマル。ミルクを持つ手がぶるぶ る震えてしまいます。
自分の病気(結核)で頭がいっぱいで息子のそんな反応に気付かないママ。
「きちんと飲むのよ」
と言うと自室に戻ってしまいます。
イングマルの震えが更に大きくなったことに気付かずに。

夏になるとママの病気はさらに悪化して、入院してしまいます。
そこでお兄ちゃんはお祖母ちゃんの所、イングマルはグンネル叔父さんの所に預けら れることになります。
愛犬のシッカンは連れて行けないということで心配しますが、犬の保育所で預かって くれるということで、イングマルは 叔父さんの所へ行きます。

迎えに来た叔父さんと叔母さん、2人に挟まれて車に乗るシーンが何気ないけれどい いです。
イングマルに叔母さんが行った言葉。
「少し暖かくなったわ。あんたが太陽を持ってきたのよ」
恥ずかしそうなイングマル。
このシーンに私も、暖かい太陽を感じました。
イングマルはこの叔父さん夫婦の所で暮すようになって震えが止まります。

山に囲まれた、大きなガラス工場のある小さな村。
そこでイングマルは、ちょっと変わっていて楽しい村人達と出会います。
屋根の修理ばかりしているフランソンさんや、叔母さんの伯父さんで家に同居してい る、寝たきりのアルビドソンおじいさんは イングマルに下着雑誌の朗読をさせます。

中でも印象的なのが、サッカーの上手な美少年で、ガキ大将のサガです。
サッカーの練習で、イングマルともう1人の少年をあっさり交わして、あざやかにシ ュートをきめるサガは本当にかっこ良かったです。

でもそのすぐ後に、実はサガは女の子だと分かります。
きれいな男の子が大好きな私は少しがっかりしたものの、同時に違う意味でかっこい いなと思いました。
ハンサムな女の子、素敵です。

ボクシングの試合、ここでも強いサガは村の男の子達を次々に負かし、イングマルも 激しくやり返しますが結局負けてしまいます。
けれど帰り道、イングマルを追い越したサガが振り返って言います。
「右のパン チが良かったよ」
完璧なクール美少年ぶりのサガですが、イングマルは複雑そう。

男の子同士なら、きっと素敵な親友同士になれたイングマルとサガ。
でもサガも少しずつ胸が大きくなってきて「もう男の子達とスポーツができないかも しれない」とイングマルに相談 します。
「まだ大丈夫だよ」と言うイングマル。
サッカーの試合の後のユニフォーム交換で、1人だけ脱げなくてムキになるサガに少 しずつ女の子を感じて。
親友とは違った意味で近付いていく2人の関係がまた初々しかったです。

夏が終わり都会に帰ったイングマル。
ママの病状は更に悪化しています。
はた目から見てもママの死が近いことは分かりますが、イングマルは久し振りに会う ママに照れくさそうに「クリスマス プレゼントは何がいい?」と聞きます。
ぼんやりと「あなたが考えて」と言うママ。
信頼を受けたと思い顔をほころばせるイングマルが悲しいです。

「ママへのプレゼント代を協力して」と、しつこく言ういうイングマルに「分からな いのか?ママは死ぬんだ!」という お兄ちゃん。
「嘘つき!」と言うイングマル。

このシーンには泣きました。
私も上の子であるので、お兄ちゃんの気持も分かります。
弟の無邪気さがとてもつらくて、いらいらする気持。
それでも、ママのプレゼントのトースター(ママが病気でなくてもあまり喜びそうに ない不器用なプレゼント)を買いに 行くイングマルの姿が痛々しかったです。

ママが亡くなり、またグンネル叔父さんの所へ行くイングマル。
夏を過ごした村は季節が変わり、たくさんの雪が降っています。

そこで「叔父さんの所で暮してもいいけれど、愛犬のシッカンを飼いたい」と言うイ ングマル。
言葉をにごす叔父さん。
けれどイングマルは知ってしまいます。
シッカンは死んだことを。

夜空を見上げ、ライカ犬のことを考えても、ママのこと、シッカンのこと、悲しみが 止まらないイングマル。その小さな 体いっぱいの悲しみに泣いてしまいます。
世界規模、宇宙規模で見たら、本当に小さな小さな悲しみ。けれど心の中でそれ は100%になることもあるのです。
海に比べれば、本当に小さな涙が、とても塩辛いことも。

けれど、北欧の厳しい冬が終わり、春がまた戻ってくることの素晴らしさ。
子どもの物語ですが「人生って素晴らしい」と思ってしまいます。
涙と笑顔を刻み付け、そして大人になっていくのだと。
それは、とてもとても素敵なことです。

「宇宙実験で死んでしまったライカ犬。それでもその人生(犬生)は素晴らしかった よ。もちろんイングマルの人生ほど ではないけれど」
そんな風にイングマルに言ってあげたいなと思いました。