赤い靴

1948年/イギリス/133分
監督:マイケル・パウエル,エメリック・プレスバーガー
製作:マイケル・パウエル
脚本:マイケル・パウエル,エメリック・プレスバーガー
撮影:ジャック・カーディフ
音楽:ブライアン・イースデイル

キャスト
ヴィクトリア:モイラ・シアラー
レルモントフ:アントン・ウォルブルック
ジュリアン:マリウス・ゴーリング


STORY
ロンドンのバレエ団に、ヴィクトリア(ヴィッキー) という少女が入団した。 団長のレルモントフにその才能を見いだされ、彼女は“赤い靴”のバレエ劇に出演す ることになる。公演は大成功をお さめ、ビクトリアは一躍スターとして認められる。だが、その地位は、“赤い靴”の ように、彼女に踊り続けることを 要求するものだった。作曲家ジュリアンと結婚して一旦は引退したものの、復帰を求 められ、バレエへの情熱と彼への 愛で悩んだヴィッキーは・・・。


バレエ映画の名作です。
アンデルセン童話の『赤い靴』、履いたら死ぬまで踊り続けねばならないその物語り を劇中バレエ、そして主人公 のバレリーナ、ヴィッキーの人生と重ね合わせています。
主人公のヴィッキーがレルモントフのバレエ団でプリマになれたのは、そのバレエ団 のプリマが結婚することで、 団長のレルモントフの逆鱗に触れ降ろされたからでした。
何も知らず、目を輝かせて新作バレエ『赤い靴』を踊るヴィッキー。
劇中バレエの『赤い靴』は、幻想的な映像で魅せます。ヴィッキーが靴店にあった赤 い靴に惹かれ、靴に 足を入れます。履いた途端彼女は踊りだし、街から街、そして荒野へと踊り続けます。 美しい衣装はボロボロになり疲れ果ててナイフで靴のヒモを切ろうと すると、ナイフが木の枝に変わってしまいます。ついに教会で司祭に脱がしてもらえ ますが、そこで死んでしまいます。
その映像がとても幻想的です。
バレエ『赤い靴』は大成功をおさめます。
その『赤い靴』を作曲したのがジュリアン、彼とヴィッキーは恋に落ち婚約します。
ジュリアンの才能を認めたのもまたレルモントフのはずなのに、レルモントフは2人 の結婚に反発を示し、ジュリアンは 団を出ていき、ヴィッキーも後を追います。
ジュリアンは成功するものの、ヴィッキーは引退状態、心の奥底では以前のように踊 りたいと思っています。そこに レルモントフの誘いがきます。
ヴィッキーが主役の『赤い靴』の舞台が始まる前、ジュリアンのコンサートの始まる のをラジオで聞きながら、トウシューズを履くヴィッキー。 ところがコンサートを指揮するはずのジュリアンが突然降りたとラジオが告げた時、 ヴィッキーの前に当のジュリアン が現れます。
ヴィッキーはバレエを選んだと告げるレルモントフ。泣くヴィッキーを見て、ジュリ アンは立ち去ります。
幕が上がるのを告げるレルモントフに、舞台へ向かうヴィッキーの赤いトウが映され ます。
ところが、突然その足は後ろに下がり始め、ヴィッキーは走り出します。
寂しそうに駅に向かうジュリアンが振り返ると、高い劇場の窓から彼の元へと飛び下 りるヴィッキーの姿が。
そしてヴィッキーは「赤い靴を脱がせて」と、まるでバレエそのままに息を引き取り ます。
そして主人公のいない『赤い靴』の舞台が始まるのです。

私は中学生の時にテレビで見て、美しいバレエの映像と、愛とバレエをどちらも選べ ない主人公に涙を流しました。
劇中バレエ『赤い靴』はあまりに素晴らしくて、ヴィッキーが捨てることができなかっ た気持か分かり過ぎるくらい 分かります。

実はこの物語はアンデルセンの『赤い靴』だけでなく、ある実話を元に作られていま す。
20世紀初頭に活躍し、伝説となった天才ダンサー、ヴァツラフ・ニジンスキーの物語 です。天才ではあるものの脚光を浴びなかった ニジンスキーを世に送りだしたのは、バレエ・リュスを主催するディアギレフ。バレ エ・リュスのヨーロッパ公演は 大成功しニジンスキーは世界的なスターダンサーとなります。けれどニジンスキーが 結婚し、一時期ニジンスキーが ディアギレフの愛人だったこともあり、バレエ・リュスを解雇されます。
バレエ団を自分で結成してもうまくいかず、かつて自分が振り付け評判を受けた作品 でさえディアギレフにより 著作権を奪われ、ニジンスキーは次第に精神をきたし、ついには精神病院で生涯を終 えます。

ニジンスキーが解雇されたバレエ・リュスで次のスターとなったのが、レオニード・ マシーン。その彼が劇中バレエ 『赤い靴』の靴屋として登場していました。

アンデルセンの『赤い靴』の少女、映画『赤い靴』のヴィッキー、伝説のダンサー、 ニジンスキーの生涯に、 バレエが大好きなだけに涙を流さずにいられません。
けれど赤い靴に選ばれた事、それだけでもダンサーとして幸せだったのかもしれませ ん。