蝶 の 舌

1999年/スペイン/96分
監督:ホセ・ルイス・クエルダ
脚本:ラファエル・アスコナ
原作:マヌエル・リバス
音楽:アレハンドロ・アメナバル

キャスト
グレゴリオ先生:フェルナンド・フェルナン・ゴメス
モンチョ:マヌエル・ロサノ
母ローサ:ウシア・ブランコ
父ラモン:ゴンサロ・ウリアルテ

STORY
1936年の冬の終わり、スペインのガリシア地方の小さな村が舞台です。喘息持ちの8 歳の少年モンチョは 学校が恐くて仕方ない。けれど老教師グレゴリオ先生の包み込むような優しさに触れ て、モンチョは次第に学校に 馴染んでいきます。先生と森へ繰り出し、蝶に渦巻き状の長い舌があることや、鳥の 求愛行動を学んでいくモンチョ。 けれど平和な生活も束の間、やがて時代はスペイン内戦をむかえ、モンチョ少年にとっ て、とても悲しい出来事が起こ ります。そして、まだ「さよなら」の仕方もわからない少年は、ある決断を迫られま す。



主人公の8歳の少年モンチョ、なんだかモンシロチョウを略したようなかわいい名前 だなと思いました。

1936年冬、スペインの小さな村。
8歳の少年モンチョは、初めて学校に行くのですが不安で仕方がありません。
喘息持っでいてみんなと一緒に一年生になれず、心配で兄アンドレスに学校のことを 聞くと、先生に叩かれたことがあるそうなのです。
モンチョは、学校へ行くのが怖くて怖くてなかなか寝つけません。

学校に行くと、ちょっと怖そうな初老の男の先生です。
この先生がぼくを叩くんだろうか。
心配で胸が張り裂けそうな上に、教室へ行くとみんなの視線が集まります。
モンチョは緊張のあまりお漏らしをしてしまいます。
恥ずかしくて教室を飛び出してしまうモンチョ。家にも帰れず、夜になって村は大捜 索でした。

そんなモンチョを家に迎えに来てくれたのは怖そうと思ったグレゴリオ先生でした。
「君を叩いたりしないよ」という先生の言葉にモンチョが学校に行くと、みんなに拍 手で迎えてくれました。


グレゴリオ先生の授業はとてもユニークで楽しいものでした。
教科書通りの学校の勉強というより、もっと本質的な知識を教えてくれました。
ジャガイモは新大陸原産だとか、アズマヤドリの求愛行動、ティロノリンコというオー ストラリア産の鳥はメスに蘭の 花を贈ること。そして、蝶の舌が渦巻き状である必要性など。

春になると、先生は子ども達を外に連れ出して自然教室をはなれて直に、自然を観察 させます。
外に出た生徒達は楽しくて仕方がありません。
モンチョも蝶の舌が見られるかもしれないと、夢中で駆け回ります。
ところがそ の時、突然モンチョを喘息の発作 が襲います。とっさの判断で、グレゴリオ先生がモンチョを抱き上げて湖に体を沈め ると、途端に発作はおさまりました。
モンチョの両親は先生に深く感謝します。

教室で大騒ぎする生徒達。先生がいくら言っても黙りません。
「黙るまで口を聞かない」と宣言する先生。
いくら騒いでも本当に黙ってしまった先生に、生徒達もだんだん心配になってきて、 自然と沈黙します。
それを見て先生は、微笑み言いました。
「ありがとう」


グレゴリオ先生が引退する日がきました。
生徒だけでなく親やかつての教え子達も来ています。
先生は言いました。
「ありがとう。自由に飛び立ちなさい」

大好きな先生との別れが受け止められないモンチョにグレゴリオ先生は「夏休みになっ たら、顕微鏡で蝶の舌を見せて あげるよ」と優しく言いました。

約束通り、先生とモンチョは森へ蝶を捕まえに行きます。
蝶を捕まえて、顕微鏡で見ようと先生が言った時、モンチョは大好きな女の子アウロー ラを見かけます。
どうしたらいいのか分からないモンチョに先生は励ますように言いました。

「ティロノリンコのようにしなさい」

ティロノリンコは先生が授業で教えてくれた、オーストラリアのメスに蘭の花を贈る 鳥のことでした。
そっと花を摘み、アウローラの所へ行きます。
それを見ながら、先生はモンチョに忘れられた蝶を空にはなします。

「自由に飛び立ちなさい」

そんな先生の言葉が聞こえるようでした。

モンチョはグレゴリオ先生が大好きでしたが、言葉や知識を全て受け止めるには幼す ぎて、 もう少しモンチョが大人になったとき、先生のお話をもっともつと聞けば良かったと 思ったことでしょう。

とても素敵な言葉の数々。

先生はモンチョに二つのプレゼントをしました。
スティーブンソン著の冒険小説 「宝島」と、初めて手にする虫採り網を。
それは単なる小さな贈り物ではなく、少年の未来に向けての大きな“鍵”なのです。


「ママが悪いことをした人は死んだら地獄へ行くと言ったけれど本当なの?」
と言ったモンチョに先生は言います。

「あの世に地獄はない。地獄は人間が作るものだ」と。

平和だったスペインに異変が訪れます。
クーデターが起こり、軍部が支配するようになったのです。
そしてスペインの内線が始まるのです。
労働者階級や自由主義者たちの“共和派”は、突然弾圧を受けます。
グレゴリオ先生は熱心な共和派でした。
そして正式ではないものの、モンチョのお父さんもまた共和派でした。

モンチョのお母さんは、優しさを捨てて家族を守ろうとします。
“共和派”に関するもの、全て焼き捨てて。

広場に集まった村の人々の前に、両手を縛られた“共和派”の人々が一人づつ連行さ れ、トラックに乗せられます。
モンチョの親友のお父さん。お兄ちゃんのバンド仲間。

「アテオ! (不信心者)アカ! 犯罪者!」

彼らを罵る声が飛び交います。

かつての仲間を見ながらモンチョのお父さんも泣きながら叫びます。
「アテオ! アカ! 犯罪者!」

そしてグレゴリオ先生も出てきました。
「お前も叫ぶのよ」モンチョにお母さんが囁きます。
モンチョの発作を先生が助けてくれた時、「このご恩は一生忘れない」と言ったお母 さんが。

先生を見つめるモンチョ。
先生もモンチョから目を離しません。
モンチョは叫びました。

「アテオ! アカ!」

悲しそうな先生。

トラックが走り出すと同時に、モンチョはお母さんの手を振り切って駆け出します。
曲がり角で石を拾いあげ、遠ざかって行く先生を必死で追いかけます。
石を投げながらモンチョが叫びます。

「ティロノリンコ! 蝶の舌!」


じわじわと感動が込み上げてきました。
ラストの悲しい出来事は、最後の15分だけです。
あまりに先生がかわいそうで、観終わった瞬間には後味が悪いとさえ思いました。
でも次第にモンチョやその両親の心の涙も考えて、つらくて、でもそれだけではない 感動の涙を流してしまいました。

先生の“神様は地獄は作らない。人間が作ったもの”、お母さんの“悪魔は元は天使 の堕ちた姿”という言葉。
最後の群集の姿に、モンチョ家族に重なりました。
つらかったからこそ、思い出のシーンは美しくて。

学校でグレゴリオ先生が生徒達に2度言った「ありがとう」。
教室で生徒が大騒ぎして授業にならなくて、体罰を与えるのではなく沈黙した先生に 最後は騒ぐのをやめた生徒達に「ありがとう」。
そして引退の時の最後の演説「ありがとう。自由に飛び立ちなさい」。
“ありがとう”という言葉は先生に生徒が言う言葉なのに、反対に先生が言っている のは本当に素敵でした。

先生はモンチョの最後に叫んだ言葉を聞くことができたでしょうか?
先生が教えてくれた、先生から教えてもらった生徒と先生しか分からない、素敵な素 敵な言葉。
先生の教え子は、きっとみんな同じ気持ですよ、と言ってあげたかったです。