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  ホワイトナイツ/白夜

1985年/136分/アメリカ
製作・監督:テイラー・ハックフォード
撮影:ディヴィッド・ワトキン
音楽:ミシェル・コロンビエ

キャスト
ニコライ・ロドチェンコ:ミハイル・バリシニコフ
レイモンド:グレゴリー・ハインズ
ダーリヤ:イザベラ・ロッセリーニ
チャイコ大佐:イエジー・スコリモフスキー

STORY
東京に向かうジャンボジェットに、ソ連からアメ リカに亡命したバレエ・ダンサー、 ニコライ・ロドチェンコが乗っていた。突然、機体が変調をきたし、ソ連の空軍基地 に不時着。ニコライは重症をおい 、犯罪者としてKGBの監視下に置かれた。



J.S.バッハ「パッサカリアとフーガ」
(オープニングシーン バリシニコフが踊るバレエ「若者と死」で流れる曲)





もう歴史になってしまったソビエト社会主義共和国連邦。
この映画はアメリカがソ連と冷戦状態にあった時の映画です。

80年代までバレエといえばソ連。ソ連はバレエにひじょうに力を注いだ国でした。
一流のダンサーになるためのバレエ学校での教育は充実し、ダンサーは国から多くの 援助を受けました。
そんなソ連を代表するバレエ団は、モスクワのボリショイバレエ、レニングラードの キーロフバレエ でした。
けれどバレエ団の演目はクラシックを中心にあまり多くなく、才能のあるダンサーに とって物足りないということもあり ました。

そのため、ダンサーの中には海外公演の際に亡命する者も出ました。
キーロフバレエ団のルドルフ・ヌレエフ、ナタリア・マカロワ、そしてミハイル・バ リシニコフ。


映画はJ.S.バッハの荘厳な音楽「パッサカリアとフーガ」から始まります。

みすぼらしい画家のアトリエ。
鉄製のベッドに横たわる若い画家。
けだるげに腕時計を見ていると、若い女が入ってきます。
男は彼女に飛びつきますが、彼女は冷たく拒絶します。それが次第に昂揚して踊りに なっていきます。
2人の体は絡み合い、そして離れ、女は画家を足蹴にします。
そして彼女は指差します。
そこには梁にくくり付けられた紐。まるで絞首台のように。
激怒した男が女を追いますが逃げられてしまいます。
やがて男はしばらく葛藤した後、紐に首を通します。

場面は変わり部屋の外。
屋根づたいに髑髏(どくろ)の仮面をつけた女の死神がやってきます。
彼女が合図すると男が首をゆっくりと紐からはずし、男は床におりてきます。
死神が髑髏の仮面をはずすと例の女。女は仮面を男に被せます。
そして二人で静 かに去って行きます。

赤い幕が降り、大きな拍手が起こります。
そしてそれまで見ていたものがバレエだったと改めて知るのです。

バレエ!
ロマンチックチュチュを着たお姫様と白いタイツの王子様が踊る、少女の夢の世界。
特に男性ダンサーにいたっては、タイツ姿を揶揄されたりとホモセクシュアル的なイ メージだったり、バレリーナの サポート役に思われがちですが、このバレエで描かれているのは、 男性の強靱さ、躍動感、そして全体に満ち溢れる退廃、素晴らしいです。

このバレエを観た時に観客と一緒に拍手をしたくなりました。
脚本は作家、詩人、画家、映画監督と多彩な才能を見せたジャン・コクトー。振付は フランスを代表する振付師ローラン・ プティです。
そして不世出のダンサー、ミハイル・バリシニコフがこのバレエを踊ったことによっ て、この映画のバレエシーンは、 映画で描かれたバレエの中でもっとも素晴らしいものになりました。
私の中では1番です。


冒頭のバレエはソ連からの亡命ダンサー、ニコライ・ロドチェンコ(ミハイル・バリ シニコフ)のロンドン公演です。
ニコライは次の公演先の東京に飛行機で向かうものの、突然飛行機が変調をきたし、 急遽シベリアの空港に不時着する ことが放送されます。
耳を疑うニコライ。亡命した彼は祖国では犯罪者です。

揺れる機体の中で、シートベルトを外し、トイレに駆け込むと、身元のわかるパスポー トやクレジットカードをちぎって 流しました。
その時衝撃が走り、ニコライは負傷します。

目覚めると病院のベッド。
そこにはKGBのチャイコ大佐が笑みを浮かべて立っていました。
「おかえり、ニコライ」

KGBはニコライを新装されるキーロフ劇場に再び登場させようと画策し、その説得 役として黒人のレイモンドとン連人妻ダーリヤ の夫婦に彼を預けました。
レイモンドは、かつてベトナム戦争で悲惨な経験をし、アメリカに失望し、脱走して ソ連に亡命したタップダンサーです。
亡命当時は優遇されたものの、今ではシベリア公演のみの儚い「自由」でした。

最初は反目しあった2人ですが、やがて互いの立場を理解し、ニコライはダンスをす ることを了解。公けには意識不明 とされたまま、彼はレイモンド夫妻とともにレニングラードヘ移されます。

レニングラードでニコライは、かつての恋人で、いまはキーロフの芸術監督になって いるガリーナ・イワノワに再会します。
彼女はKGBが派遣したニコライの監視役でした。
最初は何食わぬ顔をしていたガリーナでしたが、ニコライが亡命した時、ガリーナも 協力者として疑われ、つらい日々を過ごしたことを語ります。
そしてニコライを自分なりに説得しようとします。
「時代は変わりつつあるわ。今度、バランシン(モダンバレエの振付家)をやるのよ」
「きっと当局からつぶされる。僕はもうアメリカでバランシンを踊ったよ」

このシーンに、ポリショイ・バレエのプリマバレリーナで、70歳を超える現在も踊り 続けるマヤ・プリセツカヤが モーリス・ベジャールのモダンバレエ『ボレロ』を踊った時のインタビューに「もっ と若いうちに踊ってみたかった」 と言った言葉を思い出しました。
彼女は他のソ連出身のダンサーに比べて、様々な振付家と仕事が出来た恵まれたダン サーでしたが。

ダーリヤに子どもが生まれることもあり、レイモンドも夫婦揃ってアメリカに戻るこ とを望んでいます。
けれどニコライが脱走を企てたとしてチャイコはダーリヤを連れ去ります。

そしてニコライはリハーサルを開始します。
スタジオを観察する監視カメラの前で。

ニコライのバレエとレイモンドのタップ。

国を超え、人種を超え、ジャンルを超えて、2つの素晴らしい踊りが繰り広げられま す。

それは国を捨ててまで、芸術の道を歩みたかった2人の主張でもあります。

“自分を見てくれ。生きている”

美しさ、力強さ、躍動感、繊細さ、情熱、踊りの素晴らしさに惹き付けられます。

そのころガリーナはニコライのソ連脱出の決心に負け、秘かにアメリカ大使館と接触、 脱出工作を手助けするのですが・・・。


ソ連の崩壊と共に、優れたダンサー達が、次々に海外へと流出していきます。
現在のボリショイ・バレエやキーロフ・バレエの公演を本国の劇場で観る時に、総べ てのプリマバレリーナやダンスールノーブルが揃っていることは、 まずありえないでしょう。
日本での公演でも、こんなにたくさんのダンサーが揃って来て、バレエ団の方は大丈 夫なのかしら?と考えることがあります。

亡命について。
共産圏からは未だに亡命者はありますが、さすがに資本主義国家からは共産国への亡 命者はなくなりました。
ベトナム戦争での、アメリカの心の闇と傷は、映画でも多く取り上げられるテーマで す。
ベトナム戦争での悲惨な体験から、脱走兵となったレイモンドの言葉に胸が痛みます。

「人殺しが仕事だなんて誰も教えてくれなかったんだ」

自分が、自由に本当に生きることのできる国は本当にあるのだろうかと、考えてしま います。


 山のあなたの空遠く
 幸(さいわい)住むと人のいう。
 ああ、われひとと尋(と)めゆきて、
 涙さしぐみ帰りきぬ。
 山のあなたになお遠く
 幸住むと人のいう。

『山のあなた』 カール・ブッセ 上田敏 訳