絵画:ウォルター・クレイン 「四つの赤い薔薇」 『リチャード三世』より
MIDI:レスピーギ 「シチリアーノ」 『リュートのための古風な舞曲とアリア』より

Walter Crane, Four red roses from "Richard III",.
MIDI : Respighi, "Siciliano" from 'Antiche Danze et Arie per Liuto.




Their lips were four red roses on a stalk,
Which in their summer beauty kiss'd each other.

          (Richard III, Act 4. Scene 3. by William Shakespeare)

二人の唇は一本の茎に咲く四つの赤いバラの花だ、
それが初夏の光に美しく咲き誇り口付けしあっていた。
         (ウィリアム・シェイクスピア 『リチャード三世』 第4幕第3場)



ポール・ドラロッシュ 「塔の中の王子たち」(1830)
Paul Delaroche, Princes in the Tower, 1830.



 シェイクスピアの『リチャード三世』といえば、悪の権化であるリチャード三世を主人公にした歴史劇で、上記の言葉のような、薔薇の花のように口付けし合う美しい恋人たちのシーンなんてあったかしら?と思い、『リチャード三世』を本箱から取り出し、第4幕第3場を読みました。
 驚いたことに、この言葉は恋人同士を描いたのではなく、2人の幼い王子についての描写なのです。
 リチャード三世は、自分が王になるために、兄エドワード四世の遺児、幼い2人の王子を暗殺します。暗殺者が、殺そうとする王子たちに歩み寄った時、2人はベッドの中で腕を絡み合わせて眠っていました。暗殺者の心も揺るがせる愛らしい様子、それが上の言葉なのです。
 それにしても少年2人を表現するには、あまりに艶めいた美しい描写です。さすがソネット第18番で、“君を夏の日にたとえようか”と、少年の刹那的美しさを、言葉によって永遠にしたシェイクスピアです。


なぜ私がリチャードを信じるか一目瞭然…
リチャード三世(在位 1483-1485)
KING RICHARD III
ヘンリー七世(在位 1485-1509)
KING HENRY VII

 甥殺しについて、本当は、リチャード三世は無実だったようです。
 シェイクスピアはエリザベス一世の時代の劇作家でした。王位をめぐるランカスター家とヨーク家の争い、薔薇戦争(1455-1485)において、ヨーク家のエドワード4世とその弟リチャード三世は、ランカスター家のヘンリー六世から王位を奪い取って王位につきました。そしてリチャード三世を殺し、王位を取り戻したランカスター家のヘンリー七世が、チューダー朝を開きます。そのヘンリー七世のひ孫こそ、エリザベス一世だったのです。
 王位継承者である2人の王子がいては邪魔だ。けれど幼い世間の批判をあびることになる。死人に口なし…、2人の王子もリチャード三世も真実は語れない。リチャード三世に罪を押し付けた殺害者は、実はヘンリー七世側だったと思われます。




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