絵画:ウォルター・クレイン 「オダマキ」 『ハムレット』より
MIDI:ドニゼッテイ 歌劇『愛の妙薬』より 「人知れぬ涙」

Walter Crane, Columbine from "Hamlet".
MIDI : J.E.F.Massenet, Elegie.


OPHELIA
There's fennel for you, and columbines.


オフィーリア
王様には、フェンネルとオダマキを。
             (ウィリアム・シェイクスピア 『ハムレット』 第4幕第5場)


Dante Gabriel Rossetti, The First Madness of Ophelia, 1864.


 『ハムレット』第4幕第5場、宮廷に花を持って現れた狂えるオフィーリアは、恋人ハムレットと見間違えた兄のレアティーズにローズマリーとパンジーを渡した後で、クローディアス王にはフェンネルとオダマキ渡します。

"There's fennel for you, and columbines"
「これがあなたのフェンネルとオダマキよ」

 直訳するとこうなりますが、私の持っている『ハムレット』では、以下のように訳されています。

「あなたにはおべっかのウイキョウと不倫のオダマキ」
                            (松岡和子 訳)

「あなたにはおべっかのういきょうと、角のはえたおだまき草」
                            (永川玲ニ 訳)


 ハーブのファンネル(ウイキョウ)は、古代ローマから野菜、薬用香辛料として栽培され、中世には魔よけとしても使われました。
 『ハムレット』でオフィーリアが差し出すフェンネルは、追従のシンボルとなっています。
 兄である先王の妃ガートルードに、おべっかを使い、追従することによって、関心を買い、今は王として追従者に囲まれています。
 またフェンネルは、ヘビの好む花として信じられていました。そのことから、ハムレットの父王をかみ殺したヘビとして、クローディアス王に渡す花として相応しいといえます。

 もう一つの花オダマキの方は、不義、忘恩、嫉妬を象徴しています。オダマキは、花の後ろが角のように見えることから、「寝取られ男(浮気をされた夫)には角がはええる」と言われています。
 そう書くと可憐な野草、オダマキが気の毒ですが、オダマキの英名、Columbineは、ラテン語で「鳩のような」という意味で、花の形が鳩がとぶ姿に似ていることから名づけられました。葉が三つに分かれていることから、キリスト教の伝統の中で、三位一体の象徴とされ、中世から、聖母子像を中心とした宗教画に描かれた高貴な花でした。レオナルド・ダ・ヴィンチの名画『岩窟の聖母』の背後にも、このオダマキは描かれています。


ロセッティ 「ハムレットとオフィーリア」
Dante Gabriel Rossetti, Hamlet and Ophelia, 1858.




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