カール・ラーション 「サンザシの生垣」
MIDI:ショパン ショパン 夜想曲第9番

Carl Larsson, In the Hawthorn Hedge, undated.
MIDI : F. Chopin, Nocturne No.9 Op.32-1 in B Major.



 サンザシの生垣にたたずむ少女。ラーションの娘、リスベットでしょうか。
 サンザシと少女といえば、フランスのマルセル・プルースト (Marcel Proust 1871-1922) の、全七篇にわたる長編小説『失われた時を求めて』 (A la recherche du temps perdu) の第一篇『スワン家の方へ』 (Du côté de chez Swan) (1913) に登場する少女、ジルベルト (Gilberto) を思い出します。

 語り手である主人公が少年時代、過ごしたコンブレーという小さな美しい町、そこには二つの散歩道があり、一つは少年の家と親しいユダヤ人のスワン氏の所有地のある「スワン家の方」、もう一つは「ゲルマントの方」でした。
 この二つは散歩の方角だけではなく、「スワン家の方」は富裕なブルジョワ世界、「ゲルマントの方」は貴族の世界も示していて、主人公は後にその二つの世界に入り込んでいきます。

 主人公の家と親しかったスワン氏は高級娼婦のオデットと結婚し、娘ジルベルトが生まれますが、主人公の家は、スワンの妻と娘との付き合いは断っていました。
 ある日、主人公が父と祖父との三人で、「スワン家の方」に散歩に出ます。その散歩道には、白い花を咲かせたサンザシの生垣があり、主人公はそのサンザシが大好きでした。
 このサンザシの中で、一本だけバラ色の花を咲かせたサンザシがありました。主人公はそのサンザシを、家の中で部屋着を着た人々の中で、1人だけ祭りの衣装を着た少女のようだと思います。
 そして、生垣の向こうの小道を見た瞬間、そこに、1人の少女が立っているのを見かけます。庭いじりのシャベルを持った金髪の少女はじっとこちらを見つめていて、その少女こそスワンの娘、ジルベルトでした。そしてその少女が主人公の初恋となったのです。