アンドレ・マルティ 「青い鳥」 1945年
André E. Marty, L'Oiseau Bleu, 1945.


音楽:W・A・モーツァルト フルートとハープのための協奏曲 K.299より 第2楽章
Wolfgang Amadeus Mozart, Concerto for flute and harp in C, K.299, 2nd mov.






 母の愛の喜びにチルチルは言いました。
「ぼく、帰りたくないよ。お母さんがここにいるなら、いつまでもずっとここにいたい」

「そんなこと言わないの。私は地上にいるのよ。私たち“幸せ”と“喜び”はみんな地上にいるの。あなたたちがここに来られたのは、地上に帰ってから、私たちをどんなふうに考えたらいいか知るためなのよ。あなたたちは天国に来ているのだと思っているのでしょう?でもね、私とあなたたちがキスするところはいつでも天国なのよ。ずっと覚えていてね。たった一人の、ずっと変わらない、いつも一番きれいなあなたのお母さんを。でも人間が地上に住むようになってずっと探していたこの場所に、どうしてあなたたちは来られたの?」

「あの人、光の精さんが連れてきてくれたんだ」
 チルチルはつつましく少しわきの方へ引っ込んでいた光を指しました。

「まあ、なんてことでしょう。私たちはあの人をずっと待ち焦がれていたのよ。さあ、きょうだいたち、みんないらっしゃいな。とうとう光が来てくれたのよ」

 “喜びたち”はいっせいに光に駆け寄り、次々に光を抱きしめ、キスしました。

「ああ、光のお姉さま。私たちはどんなにあなたを待ち焦がれていたことでしょう。私はものの分かる喜びです。あなたをずっと探しておりました。私たちはとても幸福ですが、ほかの世界は分からないのです」

「私は正義の喜びです。長い間、あなたを探していました。私たちはとても幸福ですが、自分の影しか見られないのです」

「私は美しいものを見る喜びです。あなたが大好きなんですよ。私たちはとても幸福ですが、自分の夢しか分かりません」

「さあ、お姉さま、もう私たちを待たせないでくださいな。私たちはずっと強いし、心も清いんですよ。そんなヴェールなどとってください。最後の真実と幸福が隠されて見えないんですもの」

 光は体を隠していたヴェールをもっと引き寄せました。
「妹たち、ああ、きれいな妹たち。私は神様のお指図の通りにするのです。時はまだ来ません。でもいずれ来るでしょう。そうしたら私は恐れずに影も一緒に連れて帰るでしょう。 さようなら。もう一度キスしましょう。一度別れて、また会ったきょうだいのようにね。まもなく夜が明けるでしょうから」

 母の愛は光を抱きしめ、キスました。
「あなたは子どもたちに、とても親切にしてくれたのね」

「お姉さま、お別れのキスをしてちょうだいな」

 光は喜びたちに長いことキスし、抱きしめました。

 チルチルは光と喜びたちを見て驚きました。

「どうして泣いてるの?みんなどうして泣いてるの?」

 光は静かに言いました。
「だまっておいで。ね…」