皇帝の義務 (万人のために尽くして)
Jedem gibt er das Seine (He's the just distributor)



絵画:オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の肖像
Franz Joseph I of Austria




 1853年のウィーン。
 かつての大帝国、今は衰退しているオーストリア帝国を治めているのは、若き皇帝フランツ・ヨーゼフ1世だった。
 衰退したハプスブルク帝国の宮廷にあって、皇帝を支え、助言するのは、「帝国宮廷ただ一人の男の中の男」の異名をとる彼の母、ゾフィー大公妃である。
 執務室ではフランツの横に立ち、文書の署名、訪問者や陳情者の応対、すべてに口を挟んでいた。
 ゾフィーの望むのは、かつてのハプスブルク皇帝のような、威圧と力ある皇帝だった。

 容赦してはいけません!
 強くでなさい!
 冷たくするのよ!
 厳しくなるのよ!


 そしてゾフィーと執務室の訪問者たち─フランツ・ヨーゼフをのぞく全員が歌う。

 万人のために尽くし、
 すべてに秩序をお与えになる。
 神よ、私たちの若き皇帝に、
 ご加護を! ご祝福を!


 執務室に死刑囚の母が、息子の命乞いに来る。私の息子は「自由」を叫んだが故に、死刑になるという。それは死刑に値することでしょうか?どうか助けてくださいと言うのだ。
 フランツ・ヨーゼフは迷う。

 私の思うように、できるのであれば…
 義務を離れて、行動できるのであれば、
 それなら、私はもっと
 思いやりのある
 やさしい人でいられるのに。


 けれど、母ゾフィーは容赦なく歌う。

 容赦してはいけません!
 強くでなさい!
 冷たくするのよ!
 厳しくなるのよ!


 死刑囚の母の願いは却下されてしまう。
 「自由」を叫んだ故に…、フランツ・ヨーゼフは将来生まれるたった一人の息子が「自由」を叫ぶことを知らない。
 母の死後もなお、フランツ・ヨーゼフは、古典的な皇帝を演じることになる。



幼年時代のフランツ・ヨーゼフ




少年時代のフランツ・ヨーゼフ




若き日のフランツ・ヨーゼフ1世





母ゾフィーに抱かれたフランツ・ヨーゼフ
Franz Joseph with his mother Princess Sophie of Bavaria




皇帝の母、大公妃ゾフィー
Archduchess Sophie, Francis Joseph's mother