![]() 監督:ロマン・ポランスキー 製作:ロマン・ポランスキー ロベール・ベンムッサ アラン・サルド 原作:ウワディスワフ・シュピルマン 脚本:ロナルド・ハーウッド 撮影:パヴェル・エデルマン 音楽:ヴォイチェフ・キラール ショパン バッハ ベートーヴェン キャスト ウワディスワフ・シュピルマン:エイドリアン・ブロディ ヴィルム・ホーゼンフェルト大尉:トーマス・クレッチマン シュピルマンの父親:フランク・フィンレイ シュピルマンの母親:モーリーン・リップマン ドロタ:エミリア・フォックス ヘンリク:エド・ストッパード STORY 1939年9月。ポーランドはナチスドイツにより陥落し、放送局でピアノ演奏の仕事を していたウワディスワフ・シュピルマンは、 翌年早々に家族と共に市内のユダヤ人居住区(ゲットー)に移り住んだ。ゲットー内 のカフェでピアニストそしてわずかな 生活費を稼いでいたが、2年後の42年にはシュピルマン一家を含む大勢のユダヤ人が 収容所へ送られた。けれどウワディク一人が かろうじて収容所送りを逃れることができた。食うや食わずで生き延びる彼の唯一の 希望は、心の中の音楽だけだった。 ![]() 夢中になってしまうとか、大好きな作品とはまた違う。何度も繰り返して観るには、 つらい作品です。 でもこれほど心を打たれた作品は、最近ありませんでした。 主人公と共に悲しい運命を辿り、途中で消えてしまった、もしくは語られなかった人々 のエピソードの一つ一つ、 思い出しては悲しみが止まりません。 特に老人や体の不自由な人々の扱いは酷いものでした。 突然押し入ってきたナチ親衛隊達に「立て」と言われて立ち上がれなかった車椅子の 老人、 松葉杖をつきながらナチの将校達の前で言われるがままに踊り、倒れる老人。その他 淘汰されていく老人達が、かわいそうと思う間もなく、 あっという間に画面から消えていき、思い出すと胸が痛みます。 ![]() 家も仕事もピアノも、大切な家族、人間としての尊厳でさえも。 映画を観ながらの、私の密やかな楽しみのお菓子。 ユダヤ人居住区から収容所へ送られる際の駅での、シュピルマン家族の、 法外な値段のキャラメルひと粒を家族6人で分けるエピソードの後から、食べられな くなりました。 ![]() でも、ランダムに一斉に黒い羽を落とされてしまった人達がいた歴史は、悲しいです。 その後に生まれる人生、もしくはアメリカなど他の国で生まれていたら、一人一人の 人生、一つ一つの家族の運命は、 全く違っていたのに。 映画のサントラを買おうとして気付きました。この映画はショパンを中心とした既成 の曲以外、新たにこの映画のために 作られた曲はなかったこと。 つまり「○○のテーマ」のようなBGMとして使われた曲はなかったことに、驚きまし た。 あったのは銃、爆撃、押し殺した悲鳴、だからこそ、ほんの僅かに流れるショパンが、 涙が出るほどきれいに思えたような気がしました。 ![]() 見つけた缶詰めを必死に開けようとしていると、缶詰めが滑り、転がってぴかぴかに 磨かれた革長靴の前で止まります。 それはドイツ軍の大尉でした。 怯えて声もでないシュピルマンに、大尉は何者か尋ねます。 やっとのことでシュピルマンは答えます。 「私はピアニストでした」と。 大尉はシュピルマンにピアノを弾くよう促し、グランドピアノに導きます。 ヒゲぼうぼうの姿となり、見る影もなくやつれ、寒さと飢えに震えているみすぼらし いシュピルマンの手が、鍵盤に置かれた瞬間、魔法のように素早く鍵盤を動き、 美しい曲を紡ぎ出します。 ショパンのバラードの第1番を弾くシュピルマンの姿に、淡い一条の月光が差し、そ れは暗い教会で十字架のキリストに光が差しているように思え、神聖な気がしました。 どんなに、どんなに、弾きたかったことだろうと思うと涙が止まりませんでした。 大尉は自分の家族の写真を机に置く、優しい人でした。 シュピルマンを殺すことなく、引き渡すことなく、食べ物を与え、それがシュピルマ ンの命を救います。 ![]() 同じショパンの曲でも、ショパンが祖国ポーランドの蹂躙を聞いて作った「革命」や、 ショパンの伝記映画『別れの曲』でやはり ポーランド侵攻のシーンで使われた、激しい「木枯らし」のエチュードではなくて。 シュピルマンは助けられこそすれ、誰かを助けたり、ユダヤ人やポーランドのために 立ち上がった英雄でもありませんでした。 ただの「ピアニスト」でした。 エンドロールに流れる美しい、ショパンの「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大 ポロネーズ」。 エンドロールにこれほど人が帰らなかった映画はありませんでした。演奏に誰もが魅 せられていました。素晴らしかったです。 映画を観た次の日、シュピルマン氏本人の演奏のCDを買いました。 48年と80年にそれぞれ録音されたショパンのノクターン第20番。映画を思い出して、 涙が出ました。
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