太陽の東・月の西
(2)


月日が経ち、話し相手のいない娘は寂しくなります。
そして娘は熊に、家族に会いたいと言いました。
熊は快く承知しますが、一つだけ約束するように言います。
自分の夜と昼の変化について、母親が聞きたがっても、話してはいけないと。

娘が戻り、家族は大喜びします。
けれど熊が心配した通り、母親は娘のことを詳しく聞きたがりました。
最初はしぶっていた娘も、ついに本当のことを話してしまいました。
そして夫の顔を見たくてしかたがないと言いました。

母親は驚き、その男の正体はトロル、魔族の1人に違いないと言いました。
そして娘に、古くからの言い伝えである、トロルの顔を見る方法を教えました。

「1本のろうそくを胸に隠してベッドに入り、
トロルの男が眠ったら、火をともしてごらん。
だけどね、気をおつけ。
男の顔にろうをたらさないように」

やがて熊が娘を、城へ連れ帰りました。
その夜、ベッドの傍らで、男の寝息が聞えた時、
娘は隠していたろうそくに火をともしました。

ろうそくのゆらぎ、小さな炎、その中に美しい人!

近づけた火の輪に照らされて、1人の美しい男が眠っていました。
ふとその男の顔がゆらいだように見えました。
娘が覆いかぶさったからです。
嬉しさのあまり、口付けしようとしたからでした。

娘の唇が触れた瞬間、ろうそくから、ろうが3滴、男の胸に落ちました。
たちまちシャツに三つのしみを作り、その熱が男を目覚めさせました。

「なんということを!」
男は娘のしたことを知り、叫びました。

「なぜ1年私の顔を見ないでいられなかったのですか。
そうすれば私にかけられた呪いは解けたのに」

そして男は自分について語りました。

「わたしは一国の王子。継母の魔女に呪いをかけられたのです。
1年経てば呪いは解けたのに、わたしはその女の元に帰らねばならない。
太陽の東、月の西にある継母の城へ!
そこには、トロルの姫がわたしを待っている。
3メートルの鼻の、長鼻姫が!
そしてわたしはその女を娶らねばならないのだ。
人の子よ。あなたに裏切られたからには…」

娘は泣き、許しを乞いましたが、手遅れでした。

「せめてわたしを一緒にお連れください」

「それはできない。魔族の手中にあるのだから。
ゆく道もない。わたしとて継母に手招きされてついてゆくのだ。
その城は、太陽の東、月の西にあると、それだけが手がかり」