白い国の姫君
(1)


昔々の北の国、1人の漁師がいました。
漁師は王様の食ぜんに乗せる、魚をとるのが仕事でしたが、
ある日、魚が1匹も取れない日がありました。

漁師が困っていると、海の中から突然、顔をのぞかせたものがいました。

「おくれ、おくれ、そうすれば魚は取り放題」
「いったい何がほしいと言うのだ。わしは貧しい漁師、金も銀も持ってない」
「金も銀もいらぬ。おまえの女房の帯の下のものがほしい」

漁師はなにげなく承知して、大漁の後で、妻にその話をしました。
なんというこを!と、妻は顔色を変えました。
妻の帯の下にあるもの、それは赤ん坊だったのです。

その話はたちまち広がり、王の耳にも届きました。
王は漁師の家に使者をやり、子の無事を引き受けると伝えたのです。
やがて漁師の妻は男の子を生み、王はその子を引き取りました。

赤ん坊は無事に成長し、少年は海に憧れました。
願いといってはそればかりで、
海の魔物を心配していた王も根負けしました。

少年は父の漁師と共に海に出ました。
行きは順調。
けれど帰りにハンカチを忘れた少年が船に戻った瞬間、
船はひとりでに動き出し、ついた所は白い浜辺でした。

少年が船を降りると、1人の白いひげの老人が立っていました。
ここがどこかと聞いた少年に、老人は「白の国」と、答えました。
そして老人は、少年に不思議なことを言いました。

「浜にそって歩きなさい。
やがておまえは3人の姫君に会う。
生き埋めにされた3人の姫だ。
みな首だけを外に出し、あとは土の中。
3人ともここから出してと言うだろうが、
1番目の姫の言うことを聞いてはならぬ。
2番目の姫の言うことを聞いてはならぬ。
3番目の姫の言うことを聞くがいい。
そうすれば幸運が訪れるだろう」

そして少年は、埋められた3人の姫君と出会いました。
土から生えた3人の姫君の首は、美しい花のようにも見えました。

少年は老人の言うとおり、3番目の姫の前に立ち、
「なんなりとお申しつけください」と言いました。

「ありがとう、旅のお方。わたくし達3人は森の城の姫ですが、
魔性のトロルによって、このような目にあったのです。
勇気がおありなら、魔物のすみかとなった城へ行き、
三日三晩、魔物の鞭を受けてください。
その責め苦に耐えたものだけが、わたくし達を元に戻せるのです。
鞭が終わったら、すぐに壁にかかった薬をお塗りなさいませ。
そうすれば、たちどころに傷は治ります。
もし助けていただけたなら、わたくしはあなたの花嫁になりましょう」