絵画:ウォルター・クレイン 「カーネーション」 『シェイクスピアの花園』より
MIDI:チャイコフスキー 「ロココ風の主題による変奏曲」

Walter Crane, Carnation from "Flowers from Shakespeare's Garden", 1906.
MIDI : P.I..Tchaikovsky, ''Variation on a Rococo Theme.




PERDITA
Sir, the year growing ancient,
Not yet on summer's death, nor on the birth
Of trembling winter, the fairest
flowers o' the season
Are our carnations and streak'd gillyvors,
Which some call nature's bastards: of that kind
Our rustic garden's barren; and I care not
To get slips of them.

          (Winter's tale, Act 4. Scene 4. by William Shakespeare)

パーディタ
お客さま、今年もだいぶたちましたが、
まだ夏は去ってしまったわけではなく、冬も来てはいませんわ。
この季節の一番美しい花はカーネーションと、
自然の産んだ私生児とも呼ばれる縞石竹(しませきちく)でしょうけれど、
あんなお花は、このような田舎には生えていませんし、
さし芽をほしいとも思いません。
         (ウィリアム・シェイクスピア 『冬物語』 第4幕第4場)


 シェイクスピアの『冬物語』(1610年初演)の舞台は、冬のシシリア(イタリア)と晩夏のボヘミア(チェコ)です。

 シシリア王のレオンティーズは突如、友人であるボヘミア王ポリクシニーズと、自分の妻である王妃ハーマイオニーが通じているという疑惑を抱きます。
 ポリクシニーズの暗殺を計画しますがそれは失敗し、王妃ハーマイオニーの方は牢に入れられてしまいます。
 ハーマイオニーは牢の中で女の子を産みますが、レオンティーズはその子をポリクシニーズの娘と信じ、ボヘミアの荒野に捨てさせます。
 王妃の裁判中、アポロ神の神託ば告げられ、それによればハーマイオニーもポリクシニーズも無実でした。レオンティーズは初めそれを信じませんでしたが、王子が急死し、アポロ神の怒りに触れたことに気付きます。けれど時既に遅く、ハーマイオニーの死が告げられます。
 一方、ボヘミアの荒野に捨てられた王女は、パーディタと名づけられ、彼女を拾った羊飼いの親子に育てられました。

 16年が経過し、美しく成長したパーディタは、母と不義の疑いをかけられたボヘミア王ポリクシニーズの息子フロリゼルと恋に落ちていました。
 収穫祭りの日、羊飼いの家ではパーディタがホステス役を務め、祝宴が開かれました。その客の中には百姓に変装したフロリゼル王子もいました。そして最近の王子の様子に疑惑を持ったボヘミア王ポリクシニーズと、シシリアの貴族で今はボヘミア王の忠実な家臣となっているカミロも客の中に紛れ込みます。
 パーディタはホステスとして挨拶すると、次々に花を配り、様々に花について語ります。それが「パーディタの花づくし」(欧米では「パーディタの花目録」(Perdita's Catarogue)と呼ばれる)と呼ばれる、第4幕第4場の場面です。
 “Perdita”という名前は、ラテン語のPerdere(失う)の過去分詞を固有名詞にしたもので、“失われた者”または“捨てられし者”の意味です。
 “私生児”として捨てられたパーディタは、カーネーションの美しさをほめ讃えますが、その変種である縞石竹は美しさは認めても拒絶します。人工的に交配させて作った“私生児”だからというのです。

 羊飼いの家の祝宴の中、ポリクシニーズは息子の口から、親に知らせずにパーディタと結婚するつもりだと聞かされ、逆上して変装を解き、フロリゼルにパーディタと別れるようにというと、立ち去ります。それでもパーディタと結婚すると言うフロリゼル。忠臣カミロは、パーディタとフロリゼルにシシリアに向かうように言います。

 シシリアで贖罪の日々を送っていた王レオンティーズの前に、パーディタとフロリゼルが現れます。そして2人に同行した羊飼いの持ち物から、ついにパーディタがレオンティーズの娘でシシリア王女と分かるのです。宮廷は喜びに沸きます。そこに2人を追ってきたポリクシニーズも登場し、レオンティーズとポリクシニーズは和解します。
 そんな喜びの中で、亡き王妃ハーマイオニーの石像が披露されました。レオンティーズが亡き妻を想い、改めて悲しみにくれた時、石像が動き出しました。ハーマイオニー王妃は実は生きていたのでした。
 親子、夫婦の再会、若い王子と王女の婚約を祝福しつつ、劇は終わります。


アーサー・ラッカム挿絵 『冬物語』
Arthur Rackham, "Winter's tale".




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