ブライアン・ワイルドスミス 「メーテルリンクのあおいとり」
Brian Wildsmith, Maurice Maeterlinck's Blue Bird.


音楽:ジュゼッペ・ヴェルディ 『椿姫』より 乾杯の歌
Giuseppe Verdi, Brindisi (Drinking Song) from 'La traviata'.




 チルチル、ミチル、光の精、犬のチロー、パンの精、砂糖の精の一行は、幸福の御殿へとやってきました。

 そこはぜいたくなものでいっぱいでした。大理石の高い柱のある大広間。
 たくさんの花輪や彫像、細工物がごてごてとかざられ、真ん中の大きなテーブルには、とてもごちそうでいっぱいでした。その周りにはでぶでぶと太った“ぜいたく”たちが集まって、飲んだり食べたり、歌ったりしゃべったり、ごろごろ転がったりしています。みんなとても楽しそうでした。

 ぜいたくの中で一番太った1人がにこにこ、よいしょよいしょと、ゆっくり大きなお腹をゆすりながらチルチルの方にやってきます。

 光の精はチルチルに言いました。

「こわくはありませんよ。みんなとても優しいんですから。多分あなたたちをごちそうに呼びに来たんですよ。でも決して行ってはいけませんよ」

「どうして?ちっちゃいお菓子でもいけないの?」

「それがいけないのよ。あなたたちのしようとう気持ちをだめにしてしまうのです。人間はなにかしなくてはならないことがある時には、なにかを犠牲にするということを知らなくてはなりません。だから丁寧にきっぱりとお断りしなさい」

 ぜいたくがやってきました。

「やあ、チルチルさん、わたしはぜいたくの中で一番大きな
“金持ちのぜいたく” です。あなたがたみなさんに、山ほどのごちそうを食べてもらおうと来ました。この世のあらゆるぜいたくたちが集まっていますよ。ナシのようなお腹をしたのが “地主のぜいたく” たいへんきれいでふくれた顔をしているのが “満足したみえぼうのぜいたく” それから “酒を飲むぜいたく” とお腹がすいてなくても食べる “食いしん坊のぜいたく” その向こうに寝そべっているのは “何もしないぜいたく” 居眠りしているのが “必要以上に眠るぜいたく” そして耳が聞こえない “何もものを知らないぜいたく” 目が見えない “何もものが分からないぜいたく” です」