アンドレ・マルティ 「青い鳥」 1945年
André E. Marty, L'Oiseau Bleu, 1945.


音楽:アントニン・ドヴォルザーク 交響曲第9番『新世界より』 第2楽章「家路」
Antonín Dvorák, Symphony No.9 'From the New World', Op.95,
2nd Mvt. Largo (containing theme 'Going Home').






 突然大きな音がしました。それは長く強いはっきりと響き渡りました。
 大きな扉が光り始めます。

「どうしたの?」
 チルチルは子どもの1人にたずねました。

「“時のおじいさん”だよ。扉を開けるんだ」

 子どもたちにざわめきがひろがりました。
 機械をいじっていた子どもたちは作業をやめ、眠っていた子どもも目を覚まし、いっせいに扉に向かいました。

「夜が明けるんだ。今日生まれる子どもが地球に降りていく時間なんだよ」

 扉が開きました。
 背の高い老人“時”が鎌と砂時計を持って入り口に現れました。
 扉の向こうには、ばら色の夜明けに包まれた波止場があり、白や金色の帆をつけた船がとまっていました。

 時のおじいいさんは声をはりあげました。
「生まれる時が来た子どもたち、用意はよいか。出発の時が近付いてきたぞ」

 空色の服の子どもたちはわれ先にと扉のほうに集まってきました。
「あたしが先よ」
「ぼくの方が先に生まれるんだよ」

 時のおじいさんはきびしい声で言いました。
「だめだめ、順番に並ぶんだ。こらこら、おまえは明日生まれる子だぞ。あっちへお行き。
そっちの小さい子ども、おまえが生まれるのは10年先だぞ。後ろにかくれている子、おまえは今日生まれるんだぞ。こっちに来なさい」

 扉をこえかけて突然後もどりする子どももいました。
「ぼく、箱を忘れちゃった。犯さなければいけない罪を入れていたんだよ」

「早く駆けて取ってきなさい。あと620秒しかない。さ、用意はいいか?みんな席に着いたかな」

 おじいさんは子どもの数を数えました。

「まだひとりたりないな。隠れたってだめだ。みんなの中に隠れているな。さあ、“恋人”という名のチビさんおまえの好きな人にお別れをするんだ」