太陽の東・月の西
(1)


遠い遠い昔の北の国。

ある貧乏な農夫の一家が住んでいました。
その家は子だくさんで、着る物も食べ物も子ども達に
ろくに与えることはできませんでしたが、
子ども達はみなかわいらしく、特に末娘の美しさは格別でした。

ある秋の嵐の夜、その家の戸を叩くものがいました。
農夫が戸を開けると、驚いたことに一匹の大きな白い熊がいました。

白い熊は礼儀正しくして、言いました。

「こんばんは。お願いがあって参りました。
一番末の娘さんをわたしにくださいませんか?
もしもいただけるのなら、そのお礼に大金持ちにしてさしあげます」

迷った末、娘は熊のもとへ行くことにしました。

娘は、迎えに来た熊の背中に乗りました。

「わたしがこわいかね?」
熊が聞きました。

「いいえ」
娘は答えました。

「ならばしっかり毛につかまるといい」

熊の背に、ゆられゆられて娘が着いたところは、
高くけわしい山の窪地でした。

そこには、信じられないような豪華な城がありました。
城は金と銀で飾られ、まばゆいほどに輝いて花嫁を迎えました。

熊は娘に一度鳴らせば望みの叶う鈴を渡しました。
ごちそうの後、娘が眠くなり、「眠いわ」と鈴を鳴らすと、
豪華なベッドが現れました。

あたりは真っ暗な闇になり、その中に人の気配がして、
娘の横に1人の男が横になりました。

その男の正体は熊でした。
夜になると、熊の皮を脱いで人間になり、
夜明けになると、また熊になってしまうのです。
暗闇の中で、娘は男の顔を見ることができませんでした。