John Everett Millais
Ophelia


ジョン・エヴァレット・ミレイ 「オフィーリア」 1851-52年
John Everett Millais, Ophelia, 1851-1852.



QUEEN

There is a willow grows aslant a brook,
That shows his hoar leaves in the glassy stream;
There with fantastic garlands did she come
Of crow-flowers, nettles, daisies, and long purples
That liberal shepherds give a grosser name,
But our cold maids do dead men's fingers call them:
There, on the pendent boughs her coronet weeds
Clambering to hang, an envious sliver broke;
When down her weedy trophies and herself
Fell in the weeping brook. Her clothes spread wide;
And, mermaid-like, awhile they bore her up:
Which time she chanted snatches of old tunes;
As one incapable of her own distress,
Or like a creature native and indued
Unto that element: but long it could not be
Till that her garments, heavy with their drink,
Pull'd the poor wretch from her melodious lay
To muddy death.

HAMLET, Act 4, Scene 7




斜に生ふる青柳が、白い葉裏をば河水の鏡に映す岸近う、雛菊、いらぐさ、金鳳花(きんぽうげ)・・・・褻(みだら)なる農夫(しずのお)は汚はしい名で呼べど、C浄な處女(むすめ)らは死人の指と呼んでをる・・・・芝蘭(しらん)の花で製(こしら)へた花鬘(かづら)をば手に持って、狂ひあこがれつゝ來やったげなが、それを掛けようとて柳の枝に、攀づれば枝の無情(つれな)うも、折れて其身は花もろともに、ひろがる裳裾にさゝへられ暫時(しばし)はたゞよふ水の面(おも)。最後(いまは)の苦痛をも知らぬげに、人魚とやらか、水鳥か、歌ふ小唄の幾くさり、そのうちに水が浸み、衣も重り、身も重って、歌聲もろとも沈みゃったといの。

ウィリアム・シェイクスピア 『ハムレット』 第4幕7場より
坪内逍遥/訳 新樹社 シェークスピヤ全集



ジョン・エヴァレット・ミレイ 「オフィーリア」のための習作 1852年
John Everett Millais, Study of Ophelia, 1852.



王妃
柳の木が小川の上に斜めに身を乗り出し
鏡のような流れに銀の葉裏を映しているあたり。
あの娘は、その小枝で奇妙な冠を作っていました。
キンポウゲ、イラクサ、ヒナギク、シランなどを編み込んで。
あの花を、はしたない羊飼いたちは淫らな名で呼び
清らかな乙女たちは「死人の指」と名付けている。
それからあの娘は柳によじ昇り、しだれた枝に花冠を掛けようとした途端
意地の悪い枝が折れて
花冠もあの娘も
すすり泣く流れに落ちてしまった。裳裾が大きく拡がって
しばらくは人魚のようにたゆたいながら
きれぎれに古い賛美歌を歌っていました。
身の危険など感じてもいないのか
水に生まれ水に棲む生き物のよう。
でも、それも束の間、
水を含んで重くなった服が
可愛そうに、あの娘を川底に引きずり込み
水面に浮かんでいた歌も泥にまみれて死にました。

ウィリアム・シェイクスピア 『ハムレット』 第4幕7場より
松岡和子/訳 ちくま文庫 シェイクスピア全集1 『ハムレット』



『ハムレット』 1948年 イギリス映画
製作・監督: ローレンス・オリビエ
出演:ローレンス・オリビエ(ハムレット),ジーン・ シモンズ(オフィーリア)


Hamlet (1948 film)
Directed by Laurence Olivier
Hamlet: Laurence Olivier Ophelia: Jean Simmons

ミレイの絵が動いているかのような、オフィーリアの死のシーン。