音楽:レクイエム K.626 “レックス・トレメンダエ(恐るべき威光の王よ)”

絵画:オディロン・ルドン(1840-1916) 「オルフェウス」(1903〜10頃)

Odilon Redon, Orpheus


モーツァルトがレクイエムよりもオペラ「魔笛」を優先するのを見て、
妻のコンスタンツェは、大金をくれるレクイエムを何故優先しないのか尋ねます。
その言葉に対してモーツァルトは、レクイエムの依頼人が“死神”だからと答えます。

酔って支離滅裂なことを言っているとコンスタンツェは怒りますが、
モーツァルトの不安を感じ取り、傍にいたいと言います。
モーツァルトはそんなコンスタンツェを愛しく思いながら、
作曲する傍らで眠ってしまったコンスタンツェを残し、
不安を忘れるため、雪の中を酒場に向かいます。

お聞きいただいている曲は、上記のシーンに流れていた
レクイエムの“Rex tramendae(恐るべき威光の王よ)”です。

絵画はオディロン・ルドンの「オルフェウス」です。

ギリシャ神話のオルフェウスは太陽神アポロンの息子で、竪琴の名手でした。
彼が奏でる琴の音は、地上に存在するすべてのものが魅了しました。
オルフェウスは、美しいニンフのエウリディケを妻にしていました。
けれどある日エウリディケは、
彼女の美しさに心を奪われた羊飼いの男アリスタイオスに追われて、
逃げまどううちに、毒蛇を踏みつけてしまい、
足を噛まれて死んでしまいます。

オルフェウスは、深い悲しみに突き落とされます。
エウリディケを忘れられないオルフェウスは、ついに彼女を求めて、
死んだ者の行く冥界へと、降りていきます。

オルフェウスは冥王デスのもとへ行き、
エウリディケを地上に連れて帰りたいと願い出ます。
ハデスは妻を思うオルフェウスの気持と、見事な演奏に感動し、
オルフェウスの願いを聞き届けます。
地上へ帰りつくまで、エウリディケを決してふりむいてはならないという条件付きで。

2人は暗い小道を通って、ついに地上に着こうという時、
オルフェウスはエウリディケが本当について来ているかと、振り返ってしまいました。
すると、たちまち彼女は冥界へ吸い込まれるように消えてしまったのです。

絶望したオルフェウスは、二度と女性に見向きもしなくなり、
彼を虜にしようとした、トラキアの乙女達の怒りをかいます。
そして、酒の神ディオニュソス(バッカス)の祭りの日、
酔った彼女達によって、手足を裂かれ、
頭と竪琴は川へ投げ込まれてしまうのです。

芸術をつかさどる女神ミューズたちは、
哀れなオルフェウスの切れ切れになった身体を集めて葬り、
竪琴は全能の神ゼウスが星の中におきました。それが琴座です。
そして死んだオルフェウスは再び冥界へ行き、
再びエウリディケを抱きしめることができたのでした。

ルドンの絵の死んだオルフェウスは、
少しも暗くなく、万物を魅了したという彼の演奏のように、
美しい色彩に満ちています。

数々のオルフェウスを描いた作品で、
私がもっとも好きな作品です。

ルドンの絵には、優しいソプラノのような、美しい音楽を感じます。
オルフェウス、モーツァルト、ルドンに、音楽という繋がりを感じてしまいます。