音楽:モーツァルト ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466より 第2楽章
Wolfgang Amadeus Mozart, Piano Concerto No.20 in D-, K.466, 2nd Mvt.



絵画:メロッツォ・ダ・フォルリ(1438-1494) 「奏楽天使」(1840頃)
Melozzo da Forli,
Angel Musician.


老人サリエリは、神父に長い物語を話し終えました。

あんたの慈悲深き神は愛する者の命を奪い、
凡庸な人間には、わずかな栄光も与えはしなかった。
神はモーツァルトを死なせ、私に責め苦を与えた。
32年間も私は苦しみぬいてきた。

自分の存在が薄れていき
私の音楽も忘れられていく。
今ではもう演奏もされない ──

だが彼は・・・

心の中に、神の声のようなモーツァルトの音楽が鳴り響きます。



そして皮肉げにサリエリは笑うと言いました。

あんたも同じだよ。
この世の凡庸なものの一人。
私はその頂点に立つ凡庸な者の守り神だ。

そしてサリエリは静かに精神病院の廊下を、運ばれていきました。
廊下には家畜のような扱いを受けている正気を失った人々がいました。

凡庸なる者達よ・・・
私はおまえ達を許そう。

サリエリは彼らにそう語りかけながら、廊下を進んでいくのでした。

そんなサリエリの耳に、モーツァルトのけたたましい笑い声が蘇りました。



このサリエリが廊下を運ばれていくラストに使われたのが、
ピアノ協奏曲第20番第2楽章です。
絵画はメロッツォ・ダ・フォルリの 「奏楽天使」です。


たった一つだけサリエリに。

モーツァルトが最後に言った言葉
「嫌われていると思った。許してほしい」は、
神からサリエリに向けられた言葉のように思えてなりません。
責めるのではなく、許してほしいと言ったのです。