野ばら

詩:ゲーテ  


Heidenröslein
          Johann Wolfgang von Goethe

Sah ein Knab' ein Röslein stehn,
Röslein auf der Heiden,
War so jung und morgenschön,
Lief er schnell, es nah zu sehn,
Sah's mit vielen Freuden.
Röslein, Röslein, Röslein rot,
Röslein auf der Heiden.

Knabe sprach: Ich breche dich,
Röslein auf der Heiden!
Röslein sprach: Ich steche dich,
Daß du ewig denkst an mich,
Und ich will's nicht leiden.
Röslein, Röslein, Röslein rot,
Röslein auf der Heiden.

Und der wilde Knabe brach's
Röslein auf der Heiden;
Röslein wehrte sich und stach,
Half ihm doch kein Weh und Ach,
Mußt' es eben leiden.
Röslein, Röslein, Röslein rot,
Röslein auf der Heiden.


野にひともと薔薇が咲いていました。
そのみずみずしさ 美しさ。
少年はそれを見るより走りより
心はずませ眺めました。
あかいばら 野ばらよ。

「おまえを折るよ、あかい野ばら」
「折るなら刺します。
いついつまでもお忘れないように。
けれどわたし折られたりするものですか」
あかいばら 野ばらよ。

少年はかまわず花に手をかけました。
野ばらはふせいで刺しました。
けれど歎きやためいきもむだでした。
ばらは折られてしまったのです。
赤いばら 野ばらよ。

訳:手塚 富雄


シューベルトやウェルナーの歌曲で有名なゲーテの「野ばら」という詩です。
この詩は作曲家にとても人気があり、シューベルトとウェルナーの曲以外に も、分かっているだけで154もの「野ばら」 という曲があるそうです。

日本でも「わらべはみたり♪」で始まる訳の合唱曲で有名です。
シューベルトとウェルナーの曲はどちらも歌われていますが、この訳につい ておもしろいことがあります。
どちらも近藤朔風氏の訳なのですが微妙に歌詞が違うのです。


シューベルトの「野ばら」



童は見たり 野中のばら
清らに咲ける その色愛でつ
あかず眺むる
紅におう 野中のばら
   
手折りて行かん 野中のばら
手折らば手折れ 思い出ぐさに
君を刺さん
紅におう 野中のばら
    
童は折りぬ 野中のばら
手折りてあわれ 清らの色香
永久にあせぬ紅におう 野中のばら


ウェルナーの「野ばら」



童は見たり 荒野のばら
朝とく清く 嬉しや見んと
走りよりぬ
ばら ばら赤き 荒野のばら
 
われは手折らん 荒野のばら
われはえ耐えじ 永久に忍べと
君を刺さん
ばら ばら赤き 荒野のばら
 
童は折りぬ 荒野のばら
野ばらは刺せど 嘆きと仇に手折られにけり
ばら ばら赤き 荒野のばら


※    ※    ※    ※    ※


折られてしまった赤い野ばら。
150以上もの歌の中で、永遠に咲き続けているなんて、とても素敵です。