太陽の東・月の西
(5)
このトロルの城には、捕らわれてきた人が閉じ込められていました。
その人達の隣の部屋が、王子の部屋の隣だったのです。
二晩続けて、王子の部屋からは娘の嘆く声がします。
人々が不思議に思って、王子にそのことを告げました。
そして王子はその夜、長鼻姫のすすめる薬を飲むふりをして、
薬を捨ててしまいました。
そして三度目の夜、ようやく2人は会うことができたのでした。
王子は今夜会えてよかったと言いました。
明日が長鼻姫との結婚式だったのです。
「あなたから引き離された日々、わたしは考えていた。
長鼻姫との結婚を逃れる方法を。
そして思いついたのだ。
このシャツをご覧。おまえが落としたろうの後が3つ。
このシャツのろうを落とせと姫に命じよう。
トロルの姫には、できぬこと。
人の子であるおまえが落としたろうは、
おまえにしか落とせないのだから」
結婚式の朝、王子は継母に言いました。
「わたしは花嫁となる人が、わたしにふさわしいか知りたいのです。
このシャツについているろうを落とせたら合格。
できなければ、その人に花嫁の資格はないのです」
それを聞いた長鼻姫は「簡単なこと」と、
シャツを洗い始めましたが、そうしても落ちません。
業を煮やした長鼻姫の母親が、変わって洗いましたが、
シャツは汚くなるばかりでした。
ほかのトロルの女たちでもだめでした。
「だめだ、だめだ。
おまえ達トロルの誰1人として、シャツ1枚洗うことはできない」
王子はそう言うと、窓の下を見ました。
「あそこに乞食娘が1人いる」
そして、王子はその娘に手を差しのべました。
「この娘なら、洗うことができるかもしれない。
洗ってごらん。娘さん」
そして娘がシャツを水につけた瞬間、シャツは真っ白になりました。
「あなただ!
わたしの花嫁となる娘、
それはこの世でたった1人、あなただ!」
それを聞いたトロルたちは怒りで、体をふくらせました。、
そしてふくらみすぎて、次々にはじけとんでしまったのです。
まるで打ち上げられては消える、夜の空の花火のように。
そして長い鼻の魔物は、誰1人残ることなく、塵となってしまいました。
王子は言いました。
「ようやく、わたしは花嫁を迎えることができた」
娘も言いました。
「あなたの手にこうして抱かれていると、旅のつらさがぬぐわれます。
でも、わたくしは旅の日々を忘れることはできません。
旅がをわたくしを、大きく賢くしてくれたのですから」
太陽の東・月の西。
その地の城を遠く離れて、
王子と娘は蜜月の旅へと立ちました。
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