帰ってきた娘
(1)


むかしむかしの北の国。
森の中の貧しい農夫の家に娘が生まれました。
けれど洗礼式をするお金もありませんでした。

名付け親には誰がなると、夫婦は教母を捜しに町へ行きました。
けれど誰もなってはくれず、とぼとぼと家に戻る道すがら、
貴婦人が1人、父親を呼び止めました。

「私が教母になり、牧師に礼を払いましょう。
そのかわりに、あなたの娘をもらいます」

夫婦は驚き、母は泣きながら断ります。

2日目も町に行き、
同じように、帰り道に貴婦人から声をかけられました。

3日目も町へ行き、夫婦は教父母探しをあきらめて、
赤ん坊を手放して、森へ帰っていきました。

その子は十になった頃、教母は旅に出かけます。

家の中にはあかずの間がありました。
娘は好奇心に勝てず、開けてしまいました。

いきなりポンと飛び出したのは、星ひとつ。
部屋から堕ちた流れ星は、遠き彼方へ消えてゆきました。

帰ってきた教母は「出て行きなさい」と怒りますが、娘は泣いて謝り、
怒りの解けた教母はまた旅に出ます。

家の中にはあかずの間。
娘は好奇心に勝てず、開けてしまいました。

いきなりポンと飛び出したのは、月ひとつ。
部屋から堕ちた青い月は、空の彼方へ消えてゆきました。

帰ってきた教母は「出て行きなさい」と怒りますが、娘は泣いて謝り、
怒りの解けた教母はまた旅に出ます。

家の中のあかずの間。
娘は好奇心に勝てず、開けてしまいました。

いきなりポンと飛び出したのは、陽がひとつ。
部屋から堕ちた黄金の陽は、天の高みへ消えてゆきました。